迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

双眼鏡にまつわるetc…

一昨日、グリーンチャンネルの“競馬場の達人セレクション”(過去放送分の限定再放送)で、蜂谷アナの回(初回放送は2011年9月)が放送されていたんだが、そこで蜂谷アナが手にしてた双眼鏡は、本人曰く「三冠実況に臨むため」という思いがあって購入したモノという。MBSで購入してもらった(経費で落とした)のでないなら、ミスターシービーが三冠達成当時の価格で30万円もしたという高価な代物を、私物として購入したのは、相当な度胸だと思うw しかし、競馬実況アナにとって双眼鏡に関するこだわりは人それぞれで、使い勝手のいい双眼鏡を手にする事は、実況の精度を極めるための条件の一つにもなっている…と言って過言ではない。
多くの実況アナは、“使いやすい双眼鏡”の条件として、光学8〜10倍のズーム倍率を求めた上で、手に馴染む事や、仕事の邪魔になりにくい事などを挙げる。つまり、自分自身の“仕事で使う道具”である以上は、やはり自分自身にとって“相棒”と呼べる存在でなければいけない訳であり、ゆえに、様々なこだわりを持つ人が多い訳である。だから、ちょっとでも見にくかったり、微調整が難しかったりすると、どんなにデジタル機能が搭載された最新鋭の双眼鏡があっても、“使い勝手が悪い”と一蹴する訳であり、逆に、古めかしく、しかも重たいボディのアナログな代物でも、自分のとって使い勝手の良いモノであれば、長期にわたってメンテを施しながら使い続ける。蜂谷アナ自身が手にしてたそれは、まさに“自分の手に馴染むモノ”であるからこそ使ってる訳であり、栗東のGⅠ公開調教でのナビ担当時でも持ち込んでいる事を考えれば、どんなに鉄アレイのように重たい代物であっても、こればっかは譲れない訳である。
ズーム倍率が光学8〜10倍の方が“使いやすい”という理由は、視野の確保の上である。というのも、光学倍率が小さいと視野を広く保てる反面、細かい動きを捉えにくくなる上、勝負服や帽色の判別がやりづらくなるし、逆に大き過ぎると視野…というより見える範囲が狭くなり、却って正確にレースの全体像を把握できなくなる。だから、“適度な光学倍率の双眼鏡は?”と実況アナ達に聞き出せば、おおよそ、8〜10倍が“使い勝手が良い”となる訳である。ただし、あくまで平均的な数値であって、競馬場の形状や光の加減、放送席があるスタンドとコースの位置関係やスタンドの高度によって使い分けるべきだという人もいるし、自分自身の視力的な問題で、使う双眼鏡を換える人もいるんで、本当に千差万別、十人十色です。
最近では、ジャイロセンサーを搭載し、使用者の手ブレを補正する機能がついたモノや、ボタン操作で簡単に倍率を調整できる双眼鏡を使う実況アナも増えてきたが、基本はあくまでアナログ的な、自分の実況スタイルや性格に合わせたモノの方が良い訳であり、機械に頼るような実況アナは、不測の事態の時に何もできなくて、放送事故につながりかねない。特に、デジタル補正機能がついた双眼鏡に使い慣れると、使用中に不具合(バッテリー切れとか、センサーの故障とか…)が生じた際に、レースに集中できずにバタバタになる可能性がある。もちろん、それを回避するために、各放送席にはレース映像モニターが設置されている訳だが、自分の目で追って実況するのと、映像に合わせて実況するのでは、感情移入や実体感などが明らかに違う。生のレース実況とVTRを使って“撮り直し”した実況では違和感を覚えるのは、そういうモノであり、現場にいて、自分の体験した感覚をフルに活かして実況するのと、適当に他の人がカメラで捉えた映像に頼るのとでは、同じ競馬実況といえど真実味、そしてリアル感が違ってくる。この件に関しては、杉本アナの指摘通りであり、自分の目でレースが追える様になって、且つ、さらに正確な判断を仰ぐために、モニターを活用する事で、自分が行う実況に深み、現実味というモノが加わる訳である。だから、実況アナがいかに現場で興奮状態になっているかを知る上での手掛かりとして、“生きた視線”での体感上の表現が必要となる訳であり、その瞬時の判断力でミスった時、語尾に詰まったり、馬名を言い間違えたり、舌を噛んだりする訳である。言い方を変えれば、現場が修羅場になればなるほど、パニックに陥りやすい人ほど実況が臆病になり、冷静な人ほど大胆な表現を行えるとも言える訳で、その一因になっているのが、自分の“商売道具”であるとすれば、それゆえのこだわりが見える訳です。