迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

競馬場の“維持費”

東京オリンピックの、いわゆる新国立競技場問題でテレビが特集を組んでいたが、根本的な話をすれば、解体せずに増改築すれば済むのを“それじゃみっともないから”と言って解体したのがすべての間違いであり、古い建築物でも、現在の安全基準を軽々とクリアしてる施設はある訳で、それを“最新鋭で”と拘るモンだから、話が明後日な方へ向く訳である。そういう意味では、むしろ高度経済成長期が、いかに急速過ぎたかを考えさせられる話ではないか?
で、ここからが本題。公営競技の施設…特に競馬場の場合、競馬の開催がない時は、何をしてるのかという件については、他のトコでの解説に任せるとして、施設の維持・管理にどれだけの費用が掛かり、それに似合う収入はどうしてるのか、考えた事があるだろうか?基本的に、馬券で得た収益からおよそ1割程度…仮に1開催で10億円稼いだとして換算した場合、そのうちのおよそ1億円が、スタンドや馬場の管理費用として計上される事になる。(大雑把に言えば、収益の8割は的中馬券の支払いに回り、残りがレースでの賞金となる)こう聞くと、結構“利回りの良い物件”と考えられがちだが、中央競馬のように、常に膨大な収益が見込める状況であれば良いが、地方競馬のように、1開催の入場者数、および馬券発売額が低調なトコでは、むしろ施設維持費が賄えずに、主催自治体から公的支援を要求せざる得ない。(それを“理由”に廃止にする訳で…)
では、施設の維持のために、どんなメンテナンスを必要とするか?大雑把に言えば、スタンド内外のインフラと、コースの整備である。具体的な事を言えば、芝コースがある中央や岩手の盛岡の場合、コース上の芝生の管理を行う上で、傷んだ箇所に新しい芝生に張り替え、これを育成する必要があり、そのために馬場内の一部に養生エリアを設ける必要がある。また、一部の競馬場では、冬場でも青々とした芝生を維持するために、コース上の基本の芝生(いわゆる和芝=イネ科)の上から洋芝(=ムギ科)の種を蒔く“オーバーシード方式”と呼ばれる手法が取られている。ダートコースでも、天候…特に大雨などによってコース上のクッション用に敷設してる砂が、周囲の側溝等に流れる事があるため、その補充が欠かせない。これも、通常は馬場内や厩舎エリア内にストックがあって、それを路盤整備で使っていく訳である。さらに、スタンドの清掃や電気系統の配線、水道関係の整備など、館内設備の維持管理もある。特に水道配管は、常に水を使う以上、一部に不具合を見つけたとしても、開催中に工事を行う訳にはいかない。同じ理屈は、電気配線にも言える訳で、配線がショートして…なんてのはできるだけ避けたいトコである。が、実際に船橋競馬場では、一部厩舎の配線で漏電した事が原因で火災が発生した事があり、その失火によって競走馬に犠牲が出たのはいうまでもない。(牧場でも、漏電火災によって繁殖馬や休養中の競走馬が犠牲になったケースがあるからなぁ…)当然だが、スタンドの耐震性補強や、コンクリートや鉄骨の経年劣化に伴う補修も含まれる訳で、この費用がバカにならない事を理由に、財政がヤバい自治体では“廃止ありき”な論議に至るのである。
また、ナイター競馬を行う場合、その照明に使う電気代をどうするかでも問題になる場合がある。毎週金曜日のみナイター開催を行っている園田競馬場の場合、その照明機器の運用に使う分をスタンドに設置した太陽光発電パネルで賄う様にしてる訳だが、その際の初期投資は、兵庫県からの助成も入っている訳であり、運用でのコスト削減ができなかったら、それこそギャンブル全廃を訴える市民団体から叩かれるのはいうまでもない。だからこそ、馬券での売り上げ向上を図る上で、場外馬券売り場のエリア拡大を急ピッチで進めている訳であり、また、ネットによる馬券発売も、積極的になっているのである。ぶっちゃけ、ナイター開催を行う様になった道営や南関、ばんえいは、馬券の売り上げに関しては好調なのだが、都心にある大井や川崎、船橋と違って、現地観戦を行う来場者自身は減っているとの事…これでは、スタンド内の飲食店や売店が次々に閉店してしまうのは無理もない話であり、競馬場に足を運んでくれないと、馬券収入は良くても、肝心のスタンドに飲食店や商店が一軒もない状況では、地域経済に深刻な影を落として本末転倒になる。その問題点を書き出すとキリがないんだが、ナイター観戦を行いたくても、交通の便が悪いトコでの開催は、宿泊も含めた観客に対する環境整備が問題となる。現に、門別競馬場の場合、札幌や苫小牧からのシャトルバスがあるといえど、最終レースまで残って帰路に着くとなると、確実に深夜になる事は目に見えているし、そもそも最寄の鉄道が現在運休中であるw(日高本線はただでさえ運転本数が少ない上に、区間内での土砂流出で復旧のめども立ってない…現状のJR北海道を考えると、このまま路線廃止になるかも?)旭川競馬があった頃でもそうだったのだが、ナイター開催のアイディアは優れていても、交通インフラがグダグダだと、誰も現地に行きたがらなくなるのはいうまでもない。(特に、ビールやチューハイ片手にナイターを楽しみたい人にとって、自分でクルマ運転して来いと言われたら、そら泣く泣く諦めるわw)この件に関しては、高知競馬場も同じ条件と考えていいだろう。とはいえ、こっちは昼間にJRAの馬券も発売してるんで、話は別なんだが…
話が逸れまくったが、単純に公営競技を行うといっても、それにかかるコストをどうするかで、話は変わってくるのであり、いくら重賞競走の数を増やそうが、場内イベントを拡充しようが、実際にライブで競馬観戦してくれるファンが来ない事には、どんなに立派なスタンドを作ろうが、ナイター競馬で、あるいはネットを通じての馬券発売による収益が向上しようが、意味がない事になる。荒尾や中津、福山が廃止になったのも、結局はその部分も響いている訳であり、どうやって集客力を上げるかに着目点を切り替えないと、再び、地方競馬の廃止が急速に進みかねない。その“初期投資”をどう捻出するか…主催自治体の財政とのにらみ合いは、これからも続くのです。