迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

競馬と鉄道の話:貨物輸送編

今でこそ、馬運車の性能が良くなった事と、高規格道が整備されたおかげで、レース当日に輸送する事も可能になった訳だが、今から40年以上前だと、そういう訳にもいかない“事情”があった…そう、競走馬の輸送に、大型の馬運車で“直送”ができなった時代において、貨車による鉄道輸送が一般的で、しかも効率がいいとはいえない環境下での取り扱いな訳である。ゆえに、関西馬が関東以北の馬場へ出走する際に、あるいは、関東馬が中京以西に遠征する際、貨物列車のダイヤと運行状況は、いろんな意味で結果を左右する問題でもありました。
先に、現在の競馬用の馬運車について解説しておくと、運送会社で保有してる馬運車は、基本、6頭までの搭載が可能で、掃除や消毒がやりやすい様に、車体床面はステンレス仕様になっていて、最新鋭のモノになると、人間だけでなく馬の方にも“冷暖房完備”という車体もある。で、殆どが大型バスか、精密機械用輸送車を改造してあるため、エアサスペンションは標準装備である。つまり、長距離輸送でも競走馬が快適にすごせる工夫が搭載されていて、また、運転席と馬房室をカメラで繋いで、馬の様子を見ながら輸送できる様になっている。もちろん、カメラが搭載されていない車両でも、運転席との仕切り部分に小窓が付いていて、そこから様子を伺う事ができる。通常の輸送では、4頭纏めて乗っけて競馬場とトレセンを行き交うのだが、GⅠクラスの競走馬の場合、安全面から帯同馬を乗せずに輸送する場合もある…こう説明すると、輸送コストが掛かりそうに思えるが、あくまでトレセンと競馬場、または関連施設への輸送は、中央競馬の場合、JRAの方から指定された運送会社によって行われるため、各厩舎への受託料などに含まれていたりする。だから、朝の早い時間に競馬場へ行くと、次々と馬運車が入っていく様子が見られるが、ほとんどの場合はピストン輸送で行われる訳である。でも、これは本当に30年ぐらい前までは、そういう事が出来なかった…競走馬の輸送も、鉄道輸送においては“家畜運搬”の一つでしかなく、ゆえに競馬場近隣の貨物駅では、他の家畜同様の取り扱いでしか輸送できなかった訳である。まして昔は、トレセン自体もなかった訳で、調教をつけるのも何も、すべて競馬場の中で行われていた。その名残は今でも、各競馬場の馬主協会にある。そう、中央の馬主は、原則として、地元の競馬場を拠点としていて、自分トコの馬を、その競馬場毎の調教師に預ける…という風習があった訳で、タマに競馬新聞等に所属が記載されるケースがある。
閑話休題。つまり、競馬場間での輸送が大前提としてあったため、最寄の貨物駅までトラック等で輸送し、そこから家畜用貨車に積み込んで、他の貨物車両と一緒に輸送する訳である。これが一番の問題で、いわゆる“突放(とっぽう…ブレーキ操作をせずに連結器を外して、貨車を勢いよく放す行為)”や、他の車両との連結待機等、狭いトコに閉じ込められる事を嫌う競走馬にとっては、苦痛でしかない作業が行われている訳で、これによるストレスが因で、いわゆる“輸送熱”を発症する事がある。現在の馬運車による高速輸送でも、ごくタマに聞く話ではあるが、40年ぐらい前は、夏競馬は遠征先での“滞在”にならざる得なかったのも、この“輸送による体力的疲労”を懸念しての話であった。だから、セントライトシンザンの時代において、三冠達成が偉業と言われたのも、この鉄道輸送による“体調変化”との戦いであった事は言うまでもなく、また、1頭でも体調不良となれば、該当する貨車にいた競走馬全馬が、防疫の観点から隔離される事もあった訳である。そして何より、有力馬が帯同馬のせいで“出走取消”となれば、身も蓋もない話になるから、なるだけ単体での輸送をしたくても、家畜用貨車を一両丸ごと借りるのは、必要以上にコストのかかる話であり、効率が悪かった。だから、モータリゼーションの一番の恩恵を受けたのは、競馬関係者…特に馬主であった事はいうまでななく、そして貨車による家畜の鉄道輸送が廃止になる要因となったのです。

さて、今年のブロマガの更新はここまで。来年は、完全に気まぐれ更新になるかもしれません…が、よろしければお付き合いください。では、良いお年を…