迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

海外競馬と実況中継の話。

先月行われた凱旋門賞は、またしても残念な結果だったが、海外競馬での、日本馬が出走する際に問題になるのが、競走馬とかは検疫や現地での管理なんだが、放送局の場合、競馬場内に自社の放送ブースを設ける事ができるかどうか、そして、中継が上手くいくかどうかがネックになる。更に、誰を派遣するかによっても、キー局と系列局で、結構な温度差があったりする。つまり、テレビでもラジオでも、数字が稼げるか否かによって、その気合の入れ様が全然違う。また、放送局の方針で、現地への派遣を見送って、海外の衛星中継をモニターリングしながら実況するという、なかなかセコい手に出る場合もある。しかし、それもこれも、番組としての制作費が割に合うかどうかという、捕らぬ狸のなんとやらな発想がありまして…

基本、日本馬が出走しない海外競馬は、グリーンチャンネルNHKでの海外競馬に関する話題で取扱うか、海外の衛星放送…特にスポーツ専門を謳い文句にしているBSかCS放送での中継ぐらいで、地上波での放送は、ほぼ皆無である。まして、インターネットでの配信は、主催者の公式以外で配信される事はレアであり、そういう放送機材を有しない主催者や、専門の実況アナが存在しないトコでは、まず映像そのものが無いw(国や地域によるが、野外の大型ビジョンを設置してない様なトコもある。)この為、日本馬が出走を決めたレースを中継したくても、その“窓口”が無くて、中継を諦めるケースも多々ある。
しかし、香港やアメリカ、フランス、そしてUAE(アラブ首長国連邦…ドバイ)の場合、近年、日本馬が遠征先として来る事が多いとあって、取材申請を行っても、大概の場合はスムーズに手続きができる…と言っても、実はそうなったのは、90年代後半以降の話であって、それまでは、中継できる様にスタッフを派遣しても、放送ブースを競馬場内のスタンドに設ける事すらできずに、一般席から場所取りやって、現地の競馬ファンから顰蹙を買う様な状態だったのである。
では、凱旋門賞に的を絞って解説すると…初めて現地・ロンシャン競馬場でリアルタイム(と言っても、生放送で流れた訳ではないが…)の実況をやったのは、1982年の第61回…テンポイントの“夢”が破れて4年が経過したこの時、杉本アナが、その“夢”を完結させる為に行ったのがそもそもで、この時の優勝馬は、4歳牝馬(当時は数えで表記するので、実際は“3歳”)のアキーダ…そう、日本馬が尽く“3歳牝馬の壁”にブチ当たる因縁は、この時からの“呪い”なのでしょうw(ちなみに、日本馬で最初に凱旋門賞に挑戦したのは、1969年のスピードシンボリで、以来、現時点での最高着順は、エルコンドルパサーナカヤマフェスタオルフェーヴルの2着。)この時の苦労話を、杉本アナは“三冠へ向かって視界よし”という、実況特選集の一コマに書いてます。今でこそフォルスストレートの存在や高低差が10mもある様なコース形態を知らない競馬関係者はいませんが、当時はそういう情報がないままで、とにかくスタートしてすぐに“森に隠れる”という展開に戸惑いながら、しかも、用意された放送席では、コースが見えないどころか、モニターすらなかった状況での実況だったと証言してます。
これが改善するきっかけは、1998年のドーヴィル競馬場で行われたモーリス・ド・ゲスト賞シーキングザパールが、ジャック・ル・マロワ賞タイキシャトルが、各々優勝したトコら辺で、この時、実況に行ったのは、ラジオたんぱ(今のラジニケ)は北野アナ(モーリスとジャック両方)、MBSは蜂谷アナ(ジャックのみ)で、この時も、モニター無しのハンデがありながらも、この偉業を実況した訳である。これを期に、JRAも本腰を入れてフランスギャロと交渉し、日本の放送局の実況ブースを設けてもらえる様になった訳である。つまり、フランスからのリアルタイムでの競馬中継において、その先駆をきったのは、いずれも関西の競馬実況アナ達だった訳なのです。ちなみに、ドバイミーティング(特にワールドカップ競走)における実況中継は、今は亡き広瀬アナが単独で取材に行った事がきっかけで、この時に初めて、日本にUAEの存在が認知される様になるのです。(彼もまた、大阪支社常駐になってからの話ですから、ある意味、ラジニケの大阪支社は、海外競馬実況の窓口にもなってる様ですw)
海外競馬の難しさを、実況アナウンサー目線で考えると、それは、日本の競馬場が如何に“整備された競馬場”であるかを痛感する訳で、特に、欧州では一般的な直線ストレートコースなんて、つい最近…新潟競馬場が改修されるまでは、日本の競馬場にはありませんでした。まして、ダートコースといえど、アメリカのダートはその名の通り、粘土質な土を破砕してるだけのモノで、日本の様に川砂を“クッション”として入れる発想は、向こうにはありません。まして、オールウェザー(タペタ)も、日本の競馬場には無い感覚の馬場です。それを初見で実況しろとなれば、それこそ、レース内容に関係無く、チグハグな状態になって当たり前です。逆に、海外から、ジャパンカップ安田記念等の外国馬にも門戸を開いている、日本の国際競走をレース実況を担当するアナウンサー達も、整備の行き届いた庭園の様な競馬場での実況は、正直、戸惑うと思います。(まして、淀川の三日月湖がある関係で、オーバルコースしか無い京都競馬場なんて、コース形態は単調でも、照り返しがあるからやり辛い…)しかし、現地の競馬実況アナと同条件の放送ブースを用意できるのであれば、何回か通ううちに、コース形態を覚えていけるモノです。その為にも、日本の競馬界は、もっと積極的に海外の競馬を経験する事が望ましいのですが…

ちなみに…フジテレビって、海外スポーツ中継をやる時、必ずと言っていい程、最初は自前でやらずにKTVの“独自取材”に頼る傾向があり、F1にしろ、凱旋門賞実況中継にしろ、先駆者である馬場アナや、去年担当した岡安アナをバカにしておきながら、いざ放送した途端に数字が稼げるとわかると、次からはKTVのアナ達の出張を許さないというセコい事を、毎回の如くやっている。今年の場合は岡安アナ自身が双眼鏡を置かざる得ない事情(関西ローカルニュース番組のキャスターに抜擢された)があって、譲ったトコもあるのだが、本来であれば、石巻アナや大橋アナに依頼するのがスジというモノ…やっぱ、あそこって最低な放送局よねぇ…w。