迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

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馬にまつわる事故の話…その2

前回では、競馬や馬術競技での事故の話をやった訳だが、今回は馬事文化に絡む話…要は、馬絡みの“祭事”に関する事故について。ようつべとかの映像で、時代祭チャグチャグ馬コでの事故映像が上がってるんだが、総じて明後日な意見を挙げているユーザーさんが多いことについて、ちょっと残念に思えて仕方ない。敢えていうが、落馬事故や馬の暴走は、馬を取り扱う行事である以上は、いつ発生してもおかしくないモノであると同時に、日本の馬事文化としての祭礼では、結構賑やかなモノが多い割には事故そのものは、よほどでない限りは発生しない…昨今の事故の多くは、観光客のデジカメ(あるいはスマホ)によるフラッシュ撮影で馬が驚いて発生してるモノであり、また、警備に当たってる地元警察官や警備員が、馬に対する知識に乏しく、“間違った”誘導や待避行動をやってることで、事態が余計に悪化してるモノばかりである。

特に宮崎のジャンカン馬踊や、岩手のチャグチャグ馬コの動画を見て、よくある“トンチンカン”な意見は、馬装の鈴の音やお囃子が煩いのではという話…重種馬やポニーが派手な馬装や大きな鈴をつけて、あるいは、独特のお囃子に合わせて賑々しくやってる様は、初見だと動物虐待にも見える光景だが、そもそも、祭事に参加するこれらの馬は、ある程度の調教・訓練を経た上でやってる訳であり、言ってみれば鈴の音や祭囃子は“騒音に非ず”という事を学習した上でやってる訳であり、また、本当に音に敏感な個体に対しては、馬術競技で使用されるイヤーキャップ(耳覆い)を付けている。言い方を変えれば“音対策”に関しては、祭事の性質上をよく理解してる地元の人達によって、馬の負担を軽減できるようにやってる訳であり、だからこそ、国や地域の無形民俗文化財としての価値が与えられているのである。

また、福島の相馬野馬追の場合、その祭礼の性格上、和鞍によるレースや、神旗争奪戦といった合戦行事がある。これを行うためには、和鞍での騎乗技術を身に付ける必要があり、また、乗り手は甲冑を纏って騎乗するため、通常以上にバランス感覚や騎乗姿勢に神経を尖らせる。流鏑馬も、馬上で弓を射るという所作が入るため、馬上でのバランス感覚がないと非常に危険な所作であり、まして京都の藤森神社で行われる駈馬神事に至っては、軽乗(けいじょう:馬上でのアクロバット演技)よりもさらに激しいスピードと動作が伴う。従って、落馬事故はその性質上よくある話であり、それによる怪我はある意味避けられない…岸和田だんじり祭における、“やりまわし”という、だんじりの“ドリフト走行”で事故るケースとほぼ同じ理屈だ。

一般的な市民祭などでのパレードで、騎馬行列を組み込んでいる事がちょいちょいあるのだが、警視庁騎馬隊京都府警平安騎馬隊の場合、パレードでの警らも兼ねて登場する事も多いんで、分相応の調教・訓練を受けたサラブレッド(ほぼ、元競走馬w)が参加してる訳だが、葵祭とか時代祭春日大社若宮おん祭のようなケースだと、近隣の乗馬クラブから馬を借りているケースが殆どで、それ故に現場の騒がしい状況下に不慣れで、不安から興奮気味になって、鞍上を振り落としたり、突然暴走する事がある。当然だが、他の武者行列等で馬を取り扱う場合でも同じで、手練れの乗馬経験者ならともかく、通常、鞍上は乗馬未経験者、あるいは初心者である…それが街の喧騒やイベント会場での雰囲気に不慣れな馬が、突然暴れ出したら、鞍上は“制御不能”になるのはいうまでもない。さらに、警察官や警備員が馬に不慣れだと、祭を見に来た観客の“安全優先”で頭がいっぱいになるから、どうしても大声での誘導に走りがちになる。こうなってしまうと、被害が拡大するのは目に見えてる話である。

こういった事から言えるのは、競馬観戦同様に、馬が出る祭礼やパレードでは、馬を“過剰に”驚かせないためにも、カメラのフラッシュ使用や、大声や奇声をあげる行為は“御法度”だということを理解し、また、できるだけ事故を起こさないためにも、観覧マナーは地域の人に従う格好で守ってもらいたいのである。祭事において馬絡みの事故はよくあることでも、その被害を最小限に抑えるには、“主催者”努力だけでなく、各々の祭事へ見に行こうと思ってる観光客も協力して、はじめて“祭礼の安全”は確保されるのです。