小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第9話。
ーとある地下組織…
「つまり、ヤツはまだ生きているということか…」
「は…あのガキを完全に始末したハズなのですが、どういう訳か、我等と同じティルタニアンの者に保護されているという情報があり、そこで、密偵に対して件の輩が潜伏してる場所の特定と、この世界上にある公安機関に対して輩の排除を促すよう命じておきました。」
「しかし…何故に我等以外のティルタニアの民が、この世界にいるというのだ?」
「まさかと思われますが、柱神直々に小隊を率いて出入りしてるのであれば、我々の行動を牽制してるのでは…」
「それはありえぬ…柱神の近衛部隊が、我等の企みを察して動くなら、人の姿を成してこの世界に現れる訳がなかろう。この技術は、我等以外使える代物ではない。」
「ですが…それを手助ける者が、この世界にいたとすれば…」
「それを見つけ、抹殺するために我等は動いてるのだ!! 我等こそが、ティルタニアを制し、あわよくば、このアーシアン…否、ステラが支配する全てを奪い取るために、我等は秘密裏に行動を起こしてるのだ…しかし、まさかここでしくじるとは。」
「閣下、始末を行ったバカを連れてきました。」
「…あの状況で助かるなんて、まして、誰も近づけない人里離れた山奥に生き埋めしたのに…」
「きちんとトドメを刺したと言ったな?だったら、なぜ完全に始末しなかった?少しでも証拠が残れば…」
「閣下、あの状況で普通のアーシアンが生きられると…」
「問答無用!! 貴様は我等を裏切った…よって、この場で処刑する。」
「お…お待ちください、閣下…閣下直々に手を下さずとも、我々で…」
「…庇うなら、お主らも同罪だぞ。それでも良いのか?」
「いいえ、閣下が手を汚さずとも、我々で処分します。」
「それをしくじって、こういう事態になっているのだ…わからぬか?」
「…」
閣下と呼ばれる事の“黒幕”は、どうやら部下の失態によって、壮大なる計画が失敗することを恐れているようである…ま、こういう上役は、どの物語でも最後は惨めな結果しか待ってないのだが…
「吾輩の手で屠られる事、譽れと思え…」
そう一言発するとともに、さっと右手を横に振り払う仕草をすると、眼前の兵士は鮮血を挙げてその場に倒れた…現場にいた士官は、その惨状を目の当たりにして、立ち尽くすしかなかった。
その頃、国神農園に麻薬捜査のガサ入れが訪れた…が、その捜索途中で、捜査班が慌ただしく帰り支度をし始めた。
「どうかされたんですか?まさか、捜査令状なしでの不法捜査だったとか…」
「あ、いや…その…我々も何が何だかなんですよ…いや、ともかく、どうやら何かの手違いだったようで…」
捜査課の若い刑事がそう答えると、対応に当たってたダイナが首を傾げた。すると、
「羽倉崎くん、すまないね…今さっき、上から連絡が入って、なぜか捜査令状そのものが無効になったらしいんだ。」
と、麻薬捜査班の動向を警戒していた押熊警部が、事情を簡単に説明した。
「押熊さん、捜査に関しての情報は…」
「誤認捜査をやってるにも関わらず、それは失礼ではないのか?それに、令状が無効になった以上、ここから先は私の担当だ。」
そう言い切られると、麻薬捜査官たちは、すごすごとその場を立ち去った。
「しかし…なんでだろうな?急に捜査令状が無効になるなんて、私も長年刑事をやってるが、聞いた事がないよ。」
その話を聞いて、ダイナは異変の原因に気付いたが、自分達が“異界の民”である事を勘付かれたくないため、言葉を殺した。