迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ〜ティルタニア騎士団物語 第16話〜

「イグニスよ、此度の作戦は、貴様の上官の失態に対する、尻拭いの様なモノだ…それでも、この仕事、引き受けるのか?」

廃工場の片隅にある、アジトらしき小屋の中で、イグニスと呼ばれた青年将校は、以前の上官の失態に対して、汚名返上の機会を求め、自ら最前線に出ることを申し出た。それに対し、

「いくらスプリング少佐の血縁と言えど、能力的に劣るところがある…特に、破壊力はあれど、再構築能力が乏しい様では、目立つ証拠を残すだけで、なんの意味もない。我々にとって、それは由々しきことだ…わかるか、イグニス。」

と、作戦参謀に作戦から下りる様、遠回しに注意されたにも拘らず、

「あの作戦は、私自身の失態です…それを庇い、目の前で処刑された以上、申し訳が立ちません。この作戦、必ず成果を上げることを約束します…だから、行かせてください!!」

と、引き下がろうとしなかった。困り果てた顔をした参謀は、その気迫に負けて、作戦の手順をイグニスに伝えた…のちにこの事が、作戦の失敗のみならず、この事件の首謀者を暴く事になるとは知らずに。

 

その頃…普段ビスタ以外は入室を禁じてる個室で、

 

「そうか…ジュンはこれ以上、無理をさせられないって事か。」

と、努が持ってきた診断書に目を通し、溜息を吐いた。

「日常生活には支障ないと言っても、体力的にこれ以上無理だ。何せ、救護した時点で、既に死んでておかしくない状況だった。しかし…」

「蘇芳さん、全てを言わなくてもわかります…心身共にズタボロにされながらもなお、その死線に抗い、生きる事を諦めなかった。だから、どうにか持ち堪えたと…」

「守護、問題はそこじゃない。」

「え…どういうことですか?」

努の意外な発言に、ビスタは戸惑った。

「俺も最初は、普通の人間…アーシアンの少年だと思って生検をしたが、どうも腑に落ちない部分があって、ちょっとお前さんらの生体データと照合したんだよ。」

次の瞬間、ビスタは、なぜ努がジュンの身体がこれ以上無理ができないのかを悟った。

「つまり…僕らと同じだと…」

「正確に言えば、短期間で、しかも無理矢理ティルタニアンに“させられた”と言った方がいいかもな。混血である直樹や渉ならともかく、生きたまま遺伝子操作を受け、強引にアグリブロス系に作りかえようとした形跡がある。これがなにを意味するか…」

「まさか…」

「彰人だと速攻でガノタツッコミが入るだろうが、そういう事だ。ジュンはお前さん以外のティルタニアンによって拉致監禁された上、禁忌とされた生体組み換え錬成の実験体として、人為的に作られた存在…って訳だ。あの動画の正体も、通常のアーシアンが見たら悪趣味な変態行為に見えるが、周囲の様子を注意深く観察すれば、いくつもの不審な点が出てくる。そこから推察すれば、他に犠牲になったアーシアンの子供達がいた可能性がある。」

ビスタの凍りついた表情を見ながら、努は考えられ得る状況を説明した。そして…

「恐らくだが、あの状況で持ち堪えられたのは、中途半端にアグリになったからこその弊害だ。今でこそ、経口摂取による食事で栄養を補える様に回復したが、ミイラみたいな見た目のまま地中に埋まってても、一週間は生命維持ができただろう…ただ、その前に“ブートプランツ”を起こして、ヒトとしての姿は、完全に潰れてしまってるだろうが。」

こう告げられ、ビスタは言葉を失った。これ程までに惨い扱いを受け、その結果、何もかもを失ったジュンは、行く宛も、帰る場所も無く、その先の未来も、絶望しかない運命に、ただ…沈黙するしかなかった。

 

同じ頃、ジュンはシーマと一緒に、直売所の清掃作業を行なっていた。普段、ジュンは嗅覚が鋭敏過ぎて、営業中の直売所や軽食コーナーには近付く事すらできない…が、月に一度、定期点検を兼ねたこの日だけは、その鋭敏な嗅覚を活用して店内の不備を探る役目で、人気のない店内に入って、シーマ達を手伝っている。

「悪いな、ジュン…こればっかは、俺達だけでは片付かねぇんだよ。」

ヴェルファイアが声を掛けたが、あの一件以降、警戒されてしまって、無視されてしまう。

「あの…まぁ、仕事…頑張れよ。」

「堀川先輩、完全に嫌われて…」

「尾崎!お前が言うな…何が悲しゅうて無視されてんか、解って言ってんか‼︎」

シーマのツッコミに、思わずヴェルファイアヘッドロックをかけるのであった。