迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第5話。

「そろそろ、こっちに来るんじゃねぇかと思ったが…旧モーザ隊が雁首並べているということは、プレセアに説得された上での行動だな。」

ビスタ達がいる居間に、突如、小柄ながらも武芸に覚えあるような風貌の男が入り込んできた。通常、ティルタニア騎士団以外の者が、結界を無視して侵入する事は不可能に近いのに、この男は、何の気配も見せずに、すんなりとビスタ達の下へ姿を現せた。ナージュとカルタスは一瞬、警戒する仕草を見せたが…

「マーグ…キミがここに来たという事は、修繕ができたってことだね。」

と、ビスタが声を男に声をかけると、

「おう、親父が…否、賢皇プラネクスが直々に作り直した神具だ。これで、やっとオマエも自由に動けるな。」

と、答えた。

「ははん…てことは、プレセア先輩も一枚噛んでたな?」

何かに気づいたナージュは、少しマーグに突っ掛かる様に尋ねると、

「いつまで柱の間に閉じ込めとくんだ?過保護なのも大概にしろよ。第一、とっくに神具の修繕は出来てたのに、待てど暮らせど受け取りに来ねぇから、オレの方で預かってたんだぞ。」

「それは、ティルタニアの…」

「“基礎の時空”を安定させるため…だろ?だがな、それをビスタ一人に任せっきりで、オマエらは何してた?そういう理屈で、ビスタを狭い牢獄の様なトコに閉じ込めてるオマエらの方が、よっぽどどうかしてるぜ。」

「だが、ティルタニアの長である龍神が不在のままで…」

「だとすりゃ、他の柱神はどうだ?ハッキリ言えば、須く“世界”を支えているのは、柱神ではなく、オマエ達の様な凡人だ。柱神として崇められているのは、あくまで“人成らざる姿”の方で、柱神の依代でしかない人間の姿は、むしろ蔑まされてるじゃねぇか。」

 「だったら…」

「いいか…いくら“時空の龍神”といえど、ビスタはビスタだ。どんなに国長だからといって、狭っ苦しい玉座に括り付けて良いなんて考えは、逆に世界をダメにする“一凶”だってのは、オマエ達は経験してるだろ?本物だからではなく、影響がどうのとかじゃなく、本気でビスタを思うんなら、他にやることあるだろ?」

ナージュ達の言い分は、すべてマーグの答えによって打ち消された。確かに、他の世界にいる“柱神”と呼ばれる者達は、神具を付けている事でマム・アースでの影響を最小限に抑え込む事ができる様になっているが、ビスタにはそのための神具が壊れていた…しかし、マーグが持ってきた、真新しい懐中時計のような物が目の前にある以上、反論するだけ無駄になる…そう、この懐中時計、実はビスタ専用の神具の“仮の姿”であり、その正体は、ビスタでなければ取り扱うことすらできない、非常に強固で重い、円形状の盾…“刻龍の円盾”と呼ばれる神具である。

「ビスタ、これでやっと、この農園を守れるな。」

「恩に着る…マーグ。やっと、これでボクは、柱の間にいなくても、時空を統べることができる。」

「礼を言うなら、親父に言ってくれ。オレはあくまで、親父の使いとしてそいつを届けたまで…まして今のオレは、勝手にティルタニアに出入りできる立場じゃねぇからな。」

嬉しそうに笑みを浮かべるビスタに対し、マーグはやれやれといった表情を示した。そう、彼こそマム・アースの柱神…アトラスの権化にして賢皇プラネクスの子息なのである。