迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

方言と実況。

ついに、園田の吉田アナの“競馬実況最長記録(最も長い間、競馬場内実況者として活躍する現役アナウンサーとして)”が、ギネスワールドレコードに認定された。なんせ、記録そのものが既に“伝説級”である事は、競馬ファンであるならご存知の通り。しかし、考えようによっては、後継者育成に必要な経費が主催者(兵庫県競馬組合)から捻出できなかった事や、その経費があったとしても、鉄火場での仕事である事を考えた時、躊躇する人も多かったと推測するのは、少々無粋な話かもしれない。しかし、様々な要因が重なって、このような記録が樹立できた事自体、それは凄い事であると認識して欲しい。
さて…競馬実況に限らず、アナウンサーにとって“聞きやすい話し方”というのは、基本中の基本として心掛けている事ではあるが、問題となるのは、誰を対象とした“話し方”なのかという点。放送局に在籍するアナ達にとっては、それはテレビやラジオの向こうにいる視聴者・リスナーを対象とする訳だが、所属する放送局ひとつとっても、その概念はひとつとは限らない。まして、全国ネットの番組を担当してるアナウンサーにとって、いわゆる“お国言葉”なるヤツがネックになる事がある。特に在京(首都圏)放送局に在籍するアナウンサーはかつて、いわゆる“東京アクセント”以外はバカにされるのがオチで、それ故に地方出身のアナウンサーは、不当なまでのパワハラを受けた。具体的に言えば、TBSにいた鈴木史郎アナは、京都出身だった事もあって、特有の関西弁(彼の場合は京都弁)を嫌った上司が、ロクに仕事を与えなかったどころか、人事に掛け合って、一時はアナウンサーとしての職を解かれたという憂き目に遭っている。(その後の大どんでん返しは、ご存知の通りw)そんな話を聞いてたのか、同じ関西出身のアナの中には、上京とともに関西アクセントを“封印”した人もいる。この状況が一変するのが、文部省(現在の文科省)の教育方針の一貫として、方言に関する考えとして、地方の風土や歴史を鑑み、民俗学的に必要な“文化”として認める決定を下した事である。それまで、民放各局は、すべてNHKのアナウンサー達が使う“標準アクセント”という、NHKだからこそ、それこそ日本全国民に対して“解り易い日本語”を作り上げ、これを基本とし、地方毎の“方言”を、ほぼ一切禁じた訳である。“ほぼ”という言い方をしたのは、実はこれに対して懐疑的な意見を持っていたNHKアナがいて、それが生田博巳アナだったりする訳です。(ま、この人の話をすると色々ややこしくなるんで、ここでは割愛w)生田アナを中心とした、関西出身のアナウンサー達は、むしろ“地方だからこその発音”を重点に置き、番組でも、報道以外は関西弁を“武器”にするアナウンサーを好んでメインMCに据える事が多かったのです。と、いうのも、関西の芸人達にとって、標準語…というより、東京アクセント(江戸発音)に対して、異様なまでのアレルギーがあり、また、NHK出身のアナは“個性がない”といって嫌っていたトコがありまして、どうしても娯楽番組を制作するにあたって、ここを何とかしないと話が進まない事が日常茶飯事だった訳である。そこで、上方芸能に詳しく、しかも関西弁と標準語をキチンと使い分ける事ができる人材が必要な訳で、そこで関西出身のアナウンサーが登用されていった訳です。
スポーツ実況においてもまた然りで、徹底的に標準語で喋る事を強要されたアナウンサーと、アクセントを気にせず方言で喋るアナウンサーでは、その実況での印象が違ってきます。つまり、同じ絶叫系でも、どうしても丁寧に、慎重に言葉を選ぶあまりに感情移入が伝わらない人と、形振り構わず叫ぶ為に、実際の状況を伝えきれてない人が出てくる訳です。以前、吉田アナの件でも解説しましたが、スポーツ実況の胆は、スタンドにいない視聴者やリスナーに、目の前で起きてる状況を、克明に言葉で表現する事です。また、競技によってスピード勝負であったり、演技力が評価されるモノであったりと千差万別で、そこの使い分けが出来てこそ、初めて本物の“実況アナウンサー”と呼べるのです。吉田アナの様に、地元の人間で、地元の競馬場で、地元のファンから支持される実況をやっていても、それが全国で通用するとは限りません。なぜなら、方言の違いは地方文化の違いであり、そこが理解できずに他場で実況しても、普段の現場の様な感覚にはなりません。その事は、2年前の福島で行われた実況マスターズで、6人の競馬実況アナが場内実況をやった際に、元々ラジニケでおなじみの白川アナや、たんぱ時代に実況してた長岡アナ以外、変な違和感を憶えた人が多かったと思います。場内実況の経験がある二人はともかく、それ以外は、そもそも場内での実況をやった経験がほぼ皆無で、しかも関西勢は“福島初見”というハンデがありました。ま、これ以上やると話が非ぬ方へ向くんでここで止めますが、経験の差が出るのは、仕方ない部分であり、そして、どういう人に対して実況をやってたかを考えた時に、この“違和感”を感じる事ができるのです。
関西での実況で、しかも、関西出身のアナウンサーが実況する分に関して、関西人なら、殆ど違和感を感じませんが、関西の放送局に在籍する、他地方出身のアナウンサーが、無理矢理関西弁で怒鳴ったとしても、却って違和感を覚えるだけで、聞いてて不快になる事があります。同じ理屈でいえば、在京放送局に在籍する関西出身のアナウンサーが、無理矢理関西弁…というより、関西特有のアクセントを封じて実況してるのを聞くと、妙な違和感を覚えるのは無理もない話なのです。(もちろん、当地での在住歴が長い人は、殆ど誤摩化されますけどねw)だけど、スポーツ実況において、標準語だろうが方言だろうが関係無く、受け手自身が状況を把握できる内容で喋っているのであれば、何の問題もないのです。逆に、変に方言や発音アクセントを気にし過ぎて、体裁だけを保とうとする実況は、プロである前に、スポーツを愛するファンに対して、そして、目の前で競技を行う参加者に対して、一番失礼な姿です。