迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第3話。

「それでなくても、2日前に、ファンタジアの時空に異変が起きて、その修正のために我々が奔走したってのに、何考えているんですか?」

そう口走ったのは、リッキー隊に所属するミゼット=コットン…元々、別部隊にいたのに、ビスタ達が気になって関わるうちに、いつしか騎士団員の一人として、リッキー隊に籍を置く事になったのだが、事ある毎に他の世界への派遣に対し、最後まで反対した。しかし、ビスタが時の柱に残る事を提案したことで、渋々、了承した経緯がある。それゆえに、国柱であるビスタに対して、辛辣なまでのツッコミを入れるようになった。

「いや…それは…」

と、ビスタが言い訳をしようとした途端、円卓の間に勢い良くドアが開く音が響いた。

「おっと、お取込み中だったか?これは失礼…」

と、入口前に一人の男が姿を現した。ティルタニア騎士団以外の者が、円卓の間に立ち入ることは、国軍規定により禁じられていた…が、件の男は、少し様子が違っていた。同じティルタニアの民であるにも関わらず、その服装は完全に場違いな…海神マリノスが率いるヤマタイカのリーフェ帝国軍の制服をまとっていた。

「アスター中将、何か御用ですか?」

「いやなに、皇子からの遣いとして謁見を…と思ったんだが、どうもその様子からして、ビスタの機嫌が悪いようだな。」

アスター中将…かつて“ティルタニアの賢武”と称されたプレセア=アスターは、古くからの知人で親友だったヤマタイカ御柱、アスカ=マリノスとの義に応えるためにティルタニアを離れ、現在はヤマタイカの東宮隊総大将となった。“皇子”とは、御柱となる以前のアスカのことで、唯一、プレセアだけ使うことが許された、アスカに対する愛称である。“中将”とは、かつてプレセアがティルタニア国軍の精鋭部隊を指揮していた頃の肩書であり、ティルタニアを離れた今でも、事情を知る一部の関係者が使っている呼び名である。

「プレセア先輩、僕…」

「何も言わなくても、顔に書いているからわかるさ。国神農園の事が気になるんだろ?」

「アスター中将!!」

「君たちが苦労してるのもわかるさ…でもね、この3年もの間、ビスタは体調が優れなかった事もあって、できるだけティルタニアの中心で時空を支えてたけど、それが何を意味してるか、君たち自身、わかってるよね?」

プレセアのその一言を聞いて、その場にいた者たちは、何かに気づいた。

「ビスタはティルタニアの国柱である以上に、マム・アースの片隅で、忘れ去られた故郷をなんとかしようと、必死に戦っていた人との約束を守れない事が心苦しいんだよ?その代理として、君たちが出入りしてるだけであって、本来であれば、ビスタ自身が、あの場所の当主としていなきゃいけなかった…でもそうすれば、ティルタニアが支えている時空の理が乱れるから、仕方なしにマム・アースとティルタニアを結界によって分離する措置を執ったんだ。わかるか?ビスタにとって、どっちの選択肢も不幸でしかない…だけどそれゆえに君たちがいるんだろ?だったら、君たち自身、何をすべきなんだ?一見すれば、ビスタ自身の我儘だけど、どっちを優先すべきかを考えた時、ビスタは国柱としての責任の方を取った…だったら、君たちがすべきことって、単にビスタの護衛ではなく、その名代として、動くこともできるじゃないか。」

「プレセア先輩、すいません…僕、やはり…」

「気にするな、ビスタ…いや、ティルタニアの長、クロノスよ。出しゃばった真似をするのは、異国の使徒がすべき行為ではない…なに、ヤマタイカ御柱の名代の戯言です。」

恐縮するビスタを庇う様に、プレセアは応えた。

「まったく…中将に言われたら、返す言葉もないっすね。」

ランティス隊のカルタス=マッキンリーが笑みを浮かべながら声をかけると、緊迫した空気が、一瞬にして穏やかになった。