迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第2話。

ーここは、一般的に“人間界”と称する通常の世界とは違う、あらゆる世界の時空の流れを監視する龍神と、その使徒が住まう世界…通称、ティルタニアと呼ばれる世界。その中心にある居城は、クロノパレスと呼ばれている。このクロノパレスにある玉座には、少々、お節介焼きな龍神、ビスタ=クロノスがいる。ビスタは、このティルタニアを統べる国柱であると同時に、時空を司る龍神としての力を持っている。いわば、ティルタニアという世界そのものを支配すると同時に、すべての世界で、正しく時を刻むために、その流れを監視し、時として、その異変に対して判断を下す使命を帯びた存在なのである。その彼の下に集いし精鋭部隊こそ、ティルタニア国軍近衛騎士団…通称、ティルタニア騎士団である。件の二人…シーマとヴェルファイアも、そこに在籍する兵士なのである。

「ワグナー隊のサンライズ曹長、およびビショップ隊士、ただいま帰還しました。」

「ご苦労さん。さっそくで悪いが、全員、円卓の間に集合する通達が出てる。お前たちも、今すぐ向かってくれ。」

「ワグナー隊長、何かあったのですか?」

「いやな、また、クロノス様が持ち場を離れて、マム・アースに向かうってうるさいんだよ…」

ヴェルファイアとシーマの上司であるエスクードは、溜め息混じりにそう答えた。

「懲りてないというか、よっぽど世話好きなのか…まったく、俺らが定期的に駐屯することで、マム・アースの時空を保っているってのに…国柱としての自覚、あるのかよ、あのボンクラは。」

「ヴェル先輩、仕方ないっすよ。元々、クロノス様自身、その素性を隠したまま、最前線で活動していた事もあって、玉座でじっとしてるのが、性に合わない人ですから。」

「あのなぁ…」

「ヴェル、そういう愚癡は、本人には言うなよ。オレ達が今でもお咎めナシで、騎士団にいられるのは、クロノス様と、モーザ隊の連中による恩情あってこそなんだぞ。」

「いや、わかってますって、隊長…それにしても、あれからもう3年か。アス…じゃなかった、渉とシンのヤツ、元気にしてっかなぁ。」

円卓の間へ向かう途中、ふと、ヴェルファイアは、とある二人の兄弟…っと言っても、実際の血縁関係ではないが、ある事件がきっかけで、事実上、ティルタニアからの永久追放処分が下った同僚達の事を想った。彼らは今、マム・アースにある都会の片隅で、普通の人間として生活を送っている。

 

「どうやら、全員が揃ったな…と言っても、シンの部隊は欠席のままだが。」

円卓の間には、騎士団に所属する精鋭部隊の面々が、顔を揃えていた。数あるティルタニア国軍の中で、たった4部隊にのみ、“騎士団”の名を使う事が許されていた。中でもランティス隊は、かつてビスタが隊長を務めていたモーザ隊…クロノスとしての素性が明らかになる以前は、国軍の中でも“愚連部隊”とバカにされた存在であった。しかし、 ビスタが国柱としての力に開眼し、ティルタニア全土で起きた騒乱を鎮めた途端に、クロノス直属の近衛部隊へと昇格したのである。そしてビスタの補佐官だったナージュ=ランティスが隊長として、部隊を引き継いだのである。もう一つの部隊、リッキー隊は、当初、モーザ隊の監視役を命ぜられた存在だったが、ビスタの素性を知って以降、モーザ隊に協力する様になり、いつしかランティス隊、ワグナー隊と同列で取り扱われる様になっていた。そして…唯一、騎士団内で名前だけの存在なのが、セフィーロ隊。とある事件でティルタニアから追放された身分でありながら、他の精鋭達から席を残す様ビスタに進言した事によって、形式上、騎士団の一部として残された存在である。

「全員に集まってもらったのは他でもない、今のティルタニアは、稀に見る平穏な状態である。そして、それは我が国軍総員と、名もなき民衆一人ひとりが、互いに手を取り合って、今日の平和を維持しているからである。」

「御託はいいよ、ナージュ。」

「ビスタ、ちっとは時空の龍神として、自覚持てよ…お前がそういう態度だから、いつまで経っても不安定な状態の世界ができるんだぞ?」

「僕としては、国柱とか、龍神だとか…そういう固っ苦しい肩書きがない方が、もっと気楽に動けていいんだけど…」

「ビスタ!!だからお前は…」

「ナージュ先輩、話が進みませんよ。クロノス様はいつでも、長としてではなく、一人の人間として、みんなと対等に話をしたい人ですから。」

「…ともかく、僕としては、久々にマム・アースに行きたいんだけど、その間、ここが留守になってしまうからって、ナージュが煩いんだ。」

「当たり前だろ!!お前が玉座にいないと、ティルタニアで不穏な動きがあったら…」

“…またかよ。”

ヴェルファイアは、ビスタ達のやりとりを見ておもわず顔を伏せた。その様子を、エスクード=ワグナーは見逃さなかった。

「気持ちはわかりますが、クロノス様、すべての世界に流れる時空を管理されている事を、よもやお忘れになって…」

エスクードがそう切り出すと、今度はビスタ自身が暗い顔をした。

「わかってるんだけど…でも、僕にとって、あの場所は、今の僕になるための原点。だから、タマに帰りたいんだ。この角さえなければ…」

そう呟きながら、ビスタは耳の後ろから天に向かって生えている、一対の角に手を当てた。その角は、クロノスが時空の龍神であることの証であり、どんなに人間の姿を模したとしても、完全に隠す事ができない、唯一の欠点でもあった。素性を隠していた頃は、ターバンの様な布を頭に巻いて隠してたのだが、結局、時空を統べる力自体を封じ切れずに姿を現してからは、クロノパレルより外に出る機会が減った…そう、ティルタニアの長であるという事は、時空の龍神としてすべての世界を監視するために、常にクロノパレスにある、“時の柱”の前で留まらなければならない宿命を背負う事を指していたからである。