迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第1話。

繁栄ある都市がある一方で、食の根幹となる農村や漁村は、衰亡の一方で、多くは集落としての機能すら失っていた。そんな限界集落の中で、ある農園が注目を集めていた。それは、地方都市の希望であり、食糧危機が叫ばれた世界を救う、一筋の光として持て囃され、いつしか“地球の未来像”として注目されるようになった。多くの人々は、ここを訪れる度に、その完璧さに驚かされ、そして、考えさせられた。それもそのはず、ここは数年前まで、耕作放棄地と廃墟しかない、荒れ果てた集落の跡地だったからである。

農園の名は、国神農園…数年前まで、その存在すらなかったここは、広大な農地を有してる訳でも、近隣の農家と提携してる訳でもないのに、いつでも新鮮な野菜や果物と、それを使った加工品が充実していた。また、観光牧場も兼ねていることもあり、乳製品や加工肉などの畜産物の品揃えもある。しかし、周囲に提携酪農場がある訳でもないのに、ここまでの充実ぶりに、疑問を抱かない人はいない…だが、それはここが、あまりにも特殊な事情があったからである。そう、一見すると限界集落内にあるしがない農場でも、そこに従事する人々自身が、普通の人間ではなかったからである。この物語は、そんな彼ら…ティルタニア騎士団に属する精鋭達の、ひょんなことから始めた、人間界での日常話である。

 

「ふぅ…今日も完売っと。」

空っぽになった直売所の商品棚を見ながら、あどけない顔したエプロン姿の青年は、ため息をついて手にした竹の棒を、くるっと反転させた。すると、下にした先が箒に変化した。その様子を見ていた、体格のいいスキンヘッドの同僚が、

「まったく…今は客人がいないからいいけど、錬成術は極力使うなって言っただろ?」

と、後輩の行動にしかめっ面をして指摘した。

「でも、早く片付けないと…今日は交代要員との引き継ぎの日ですよ。」

「まだ、時間があるだろ?」

「ヴェル先輩、何言ってるんですか。今日は合同演習がある関係で、早めに本界に戻らないと…」

「やっべ…そうだった。シーマ、急ぐぞ。」

そう言うと二人は、床を綺麗にした後、店舗のシャッターを閉め、裏手に回ると、スキンヘッドの男は壁に手を当て、

「ティルタニアの柱、クロノスに誓いし近衛騎士団、ワグナー隊曹長、ヴェルファイア=サンライズ…」

「同じく、ワグナー隊二等、シーマ=ビショップ、只今帰還します。」

と、二人が唱えると、時計盤の様な紋様が現れ、まるで観音開きの扉の様に真ん中から二つに開くと、そのまま吸い込まれるように、彼らは姿を消した。そして、何もなかったように、直売所から人の気配が消えた。