迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第4話。

翌日…といっても、マム・アースでは夕方なのだが、国神農園の敷地でも、奥深くにある、従業員専用の寄宿舎、本陣寮本舘。ここは、国神農園に常駐する従業員達の生活の場であると同時に、マム・アースで唯一、ティルタニアと同じ時空となる様に、特殊な結界が敷地内に張り巡らされ、ティルタニアン以外の者が入ると、廃校となった小学分校を再利用した宿舎にしか見えない仕掛けになっている。しかし、ティルタニアンや、ある程度の特殊能力を有する者が見ると、これほど近代設備を満載した前線基地はないという程、軍事施設としての機能に気付かされるのである。

「ふぅ…やはり“我が家”は落ち着くねぇ。」

ビスタはそう言うと、完全に昭和テイストな内装の和室で、掘りごたつに足を突っ込んだ。

「何言ってんだよ、ビスタ。本職ほっぽり出して、こんなトコにいるのが民にバレたら…」

「ナージュ先輩、無駄ですよ…そもそも、ビスタ先輩よりも、プレセア中将の方が民に慕われてますからねぇ。」

「あのなぁ、カルタス。そんなこと言ってるから、いつまで経っても…」

「それに、今回は本陣寮から出ない事を条件に、ここにいる訳ですから、外界に影響は出ませんよ。」

ナージュは少し、釈然としない様子だったが、カルタスの言う通り、結界内にある本陣寮の敷地は、実質はティルタニアのクロノパレスを直結させた時空にあるため、結界を破らない限り、時空の龍神としての力が暴走する恐れはない。仮に、ビスタが自分の意思で外界へ出ようとすれば、人間としての姿を維持する事ができなくなるからである。人間の姿のままで、ティルタニア以外の世界へ赴く時は、必ず、時空の龍神としての力を封じる“神具”を身に着けていなければならない…だが、その神具自身が、とある事件の際に壊れて以降、人間の姿見を維持することができないどころか、その力の暴走によって、全身が傷だらけになり、一時危ぶまれたのである。それ以来、パレスの奥にある“柱の間”に殆ど閉じ籠った状態になっていたのである。もちろん、それは暴走した力を中和させるためでもあるが、体調不良で全ての時空が不安定になったことを受け、それを修復させるために、龍神としての力を集中させる必要があった為である。膨大な時空の歪みに対抗するためには、龍神としての体力が重要な鍵となる…しかし、今までビスタがマム・アースにいたことが原因で、マム・アースの時空が、他の世界よりも一万年以上遅く流れてしまうようになってしまったのである。それをどうにか修復させようとした結果、神具なしでは、結界の外に出たくても身が保たない状態になってしまったのである。

「ともかく、ビスタ先輩…今回のここでの滞在は、一週間だけですよ。」

「悪いな、カルタス、ナージュ。外に出られないのは仕方ないけど、今はこれで充分だよ。」

「まったく…長年の付き合いだけど、お前のそういうお人好しな部分、なんとかならないのか?」

「僕はただ…国神翁との約束を果たしたかっただけ。この場所を…荒れ果てた農村を、たった一人でどうにかして、活気ある場所へと復活させたいという想いを、カタチにしていきたかったんだよ。そのために、みんなに迷惑をかけてるのは、正直すまないと思ってるよ。でも…」

ビスタはいつも、この農園の本当の管理人であった、国神祐介との“約束”を気にかけていた。その人は、ビスタが最初に訪れた時には、既に齢80を超える老農夫だった。しかし、ビスタの献身的な行動に心を開き、身寄り無き身を理由に、小さな農地と古ぼけた民家、そして、なけなしの財産を、マム・アースでの仮の名“国神守護”と共に、全て託したのである。以来、名義上の所有者は、ビスタの…否、架空上の“後継者”である国神守護となっている。