迷馬の隠れ家〜別館:ブルマガバックナンバー〜

こちらは、2019年まで展開していた“ニコニコブロマガ”の保管庫です。

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語  第7話。

“ー今すぐ、5000万、用意しろ!! 息子がどうなってもいいのか?”

怒号にも似た声が、遠くから聞こえる。どこに電話をかけてるのか、よくわからない…暗い何処かの倉庫の様な所の、さらに奥に据えられた、大型犬用のゲージに閉じ込められて、どれくらい時間が経ったのだろう。それまで“彼”は、高校受験のために親元を離れ、志望校の近所だという親族の自宅を訪ねたところ、急に何者かに腹部を殴られ、気が付けば全裸にされた挙句、手枷と首輪を付けられ、このゲージに閉じ込められていた。そして、満足な食事も与えられず、排泄もままならない場所で、時には理不尽な言いがかりをつけられ、その度に暴行を受けた。なんでこんな目に遭わなければならないのか、理由がわからなかった。そして…

「可哀想にな…お前の両親は、お前を見捨てて、とうとう逃げたようだな。まぁ、いい。既に次の手立ては打ってあるし、“金の卵”が産めない雌鶏に用はない…お前達、これの“処分”任せるわ。」

何を言ってるのか、訳もわからぬまま2、3人の男性に腕を掴まれ、その後、凄まじい痛みが身体中に走った…

「や…やめろ!!」

そう叫んだ時、目が覚めた。そこにはあの悪夢の様な空間ではなく、リハビリを受けていた部屋の片隅に置いてある、休息用のマットレスの上だった。全身に嫌な汗が流れているのを感じた。

「…夢…な…のか?」

肩で息をしながら、さっきのがなんなのか考えた。

「Jボーイ、大丈夫か?かなりうなされてたけど、何か思い出したのか?」

そばにいたディオンが声をかけると、少し項垂れて呟いた。

「…ぼ……は…め………り…なん…じゃ…い…」

何が言いたいのか、ディオンは、はっきりと聞き取れなかったが、相当酷いモノを見た事だけは、なんとなく察しがついた。

「今日はもう、このまま休もう。相当汗をかいているから、着替え、持ってくるね。」

そう言って、ディオンがそばを離れようとすると、Jボーイは袖を握って離さなかった。

「お、おい?!」

「…怖い…嫌…だ…一人に…しない…で。」

そのか細い手は、何かに怯えるように震えていた。その様子を見て、

「俺が代わりに取ってくるよ。根岸、Jのそば、離れるなよ…おそらく、記憶の一部がフラッシュバックしたんだ。」

「星野さん、まさか…」

「ともかく、タオルで全身を拭いてやれ。あと、そこにスポドリあるから、それ、飲ませとけよ。ただでさえ、脱水と欠食でフラフラなJだからな。精神まで参ってる以上、無理をさせると厄介だぞ。」

ナージュはディオンにそう指示を出すと、そそくさと部屋を出た。ディオンは指示された通りに大判のスポーツタオルでJボーイの体を拭いてやった。

「…ごめ…余計……惑…かけ…」

どうやら、ディオンに余計な心配をかけた事を、詫びたかった様である。

「ボクは大丈夫だよ。それより、ホラ…ちゃんと飲まないと、また倒れるよ。なんで水を飲みたがらないのかわからないけど、ちゃんと摂らないと…」

「味…無いの…いらない…」

“これって、ひょっとして…ここに来るまで、水しか与えられなかったのか?”

「今日のは、ヨーグルト味だよ。ちょっと酸味があるけど、イケるよね?」

「…うん。」

ディオンに促され、特製の経口補水液の入ったボトルに付けられたチューブを口に咥えると、少しずつ飲み始めた。どうやら、彼が受けた虐待の影響なのか、普通のスポドリや水を飲もうとしない。そこで、フルーツジュースや紅茶などで味を付けたモノを作り、それを適時に与える様にしたのである。

 

一方、

「フラッシュバックか…しかし、仮にそうだとしても、なんで急にそんな状態になったんだ?」

ナージュが件の一部始終を話すと、ビスタはJボーイの治療経過のレポートを見ながら首をかしげた。

「恐らく、ディオンが常にそばにいて、精神的に落ち着いてきたからこそ、記憶を封じてた箍が外れたんだろう。」

「だとすれば、しばらくディオンは農園の業務を外さざる得ないか…キミに対しては、未だに警戒心がある様だし、かと言って、他の連中は自分の業務以外の仕事は、あんまり引き受けないクチだからなぁ。」

「特にこの時期は、加工品製造よりも作物管理が難しいからな。ディオンはアグリだから、こういうことは全て任せられるんだが…アイツの看病に付きっきりだと、負担が大きすぎる。そのことを、アイツはアイツなりに感じてるから焦ってるんだろう。」

「頭の中の記憶がなくても、身体に染み付いた性格めいた部分が、そうさせてるのかもしれんな…ってことは、元々、責任感の強い性格だったのかもしれんな。」

二人がJボーイの件で話し込んでいると、急にナージュのスマホが外部からの着信を受けた。

「はい、星野です…」

『あ、初めまして、私は…』

着信番号を確認したところ、どうやら管轄外の警察からの電話だった。しかし…

『実は、とある事件の捜査線上に、そちらで保護された方に関する情報がありまして、捜査の協力を願いたく、お電話をおかけしたのですが…よろしかったでしょうか?』

「つまり、なんらかの事件に巻き込まれ、行方不明者の一人に、件の者が浮上したという事ですか?」

『はい…詳しい事をお聞きするために、そちらに捜査官を送りたいのですが…』

電話先の警官の問いに対し、ナージュとビスタは、互いに目配せする様に合図を送った。

“ビスタ、捜査に協力すべきか?”

“もちろんだ…ディオンとカルタスにも、連絡を入れた方が良いだろう”

「わかりました…」

一通り電話でのやり取りが終わると、ナージュは深いため息をついた。

「どうやら、なんらかの事件に関わっているのは、確定だな…こっから先は、警察に任せよう。その方が、アイツのためにも安全が確保できる。」

しかし、

「いや…捜査協力はやったとしても、身柄の確保はこっちが引き受けた方がいいだろう。」

と、ビスタは警察にJボーイの面倒までも丸投げする意見に、否定的な態度をとった。

「おいおい、ビスタ。アーシアンの事はアーシアンに任せる方が…」

「嫌な感がするんだ…もしも警官や監査官に、彼の関係者がいて、しかも事件の証拠隠滅を図る為に接近するとなれば、彼の命が危ない。捜査は協力しても、安易に相手に対する警戒を解くのは、どうかと思うよ。」

ビスタは、過去の経験から、他者の協力に対して慎重な姿勢を崩さなかった。ナージュも、その性格を知ってる上で、

「だが、俺達の捜査で限界があったから警察に依頼したんだろ?警察だって、所轄以外での事件に巻き込まれている可能性があって、全国に情報を求めた上で、直で俺のスマホに掛けてきたんだ。ここは慎重になるよりも、情報収集の為に犠牲を払うべきじゃねぇか?」

と諭した。

「…まったく、ナージュには敵わないね。ともかく、彼を保護する以上、相手が警察の捜査官であっても、必要以上の情報開示はNGだからね。」

「ハイハイ…っと、そろそろ着替えを持っていかねぇと、マズいな。ついでにディオンにも、この件、話しておくぜ。」

と言い残して、ナージュはJボーイの着替えを抱えて、ビスタの下を離れた。

 

数日後…

「ーなるほど、発見時から既に瀕死の状態で、今でも体力が充分に戻っていない…って事ですね。」

捜査官の押熊警部が農園の本陣寮を訪れ、カルタスとナージュが事件の経緯を説明し、警部もまた、Jボーイ…否、“望月淳一”に関する情報を、ナージュ達に説明していた。そこへ、件の彼を乗せた車椅子を押して、ディオンが姿を見せた。

「大丈夫、ちょっと話を聞くだけだから。」

ディオンがそう声をかけると、強張った表情のまま、警部を見据えた。

「彼が、そうですか…いや、わかってはいたのですが、まさか、こんなに変わり果てているとは。」

「押熊警部、余程酷い目に遭わされたショックで、殆どの記憶が消えてます。おそらく、事件そのものを話す事は、無理だと思います。それに…見ての通り、今の段階では、身体的に起きているのが精一杯です。」

「いや…説明されなくても、この姿を見れば、話す事すらままならないのは察しがつきます…望月くん、もう少し、我々が…」

「もち…づ…き…誰?…僕は…」

「ああ、そうでした…Jくん、我々がもう少し、早くあなたの存在に気付き、捜査を進めていれば、こんな事に…」

「…今は…僕…みん…な…一緒…」

「ああ、無理して喋らなくて良いですよ。詳しい事は、皆さんからお聞きします。Jくん、もう充分です…」

警部がそう言うと、ディオンは一礼して、Jボーイと一緒にその場を去った。

「とりあえず、今回はここで私も帰ります。捜査に進展がありましたら、また連絡します。」

「警部…こっちの方でも、なるだけ事件の全容に繋がる様な情報を収集しておくぜ。こっちもアイツを放っておけないんでね。吉野、警部を駅まで送ってやれ。」

「了解です、星野さん。」

カルタスはナージュの指示に従い、押熊警部の護衛のため自分のクルマへと案内した。当局が極秘の捜査情報を、警部に持ち出しの許可をしたという事は、なんらかの危険が潜んでいる可能性がある…そう睨んだビスタは、当日、捜査官として派遣される者に対して、警護と警戒から“案内役”を付ける事を条件に、本陣寮への立ち入りを許可したのである。警部もまた、国神農園を“第一被疑者”と睨み捜査本部と連携して探りを入れたが、むしろ、保護されている被害者の姿を見て、そして、何よりも自分に対して不信感を抱いた目で睨みつけた事から、この場は一旦引き下がる事を選んだ。そして、最寄駅に着いて、カルタスのクルマを見送ると、すぐさまスマホを取り出し、本部へと連絡を入れた。

「キャップ、国神農園は“シロ”です。被害者は安全な場所で保護され、現在治療中です…」

 

警部が無事に捜査本部へと戻る頃、

「あの…人…悪い人…で…はないの?」

Jボーイが不安そうに、警部の件をディオンに尋ねた。

「キミが、こんな状態になった件に関して、調べてくれてるんだ。今の段階でわかってるのは、とある事件にキミ自身が巻き込まれた…そこまでは、僕等でも調べがついたんだけど、事の次第は、もう少し落ち着いてから…」

ディオンがそう言いかけると、Jボーイはいつもの口調で、しかし、冷静に呟きだした。

「僕…何者かに…閉じ込められ…何が起きたか…わからない…でも…とても痛い…手足…動かない…首が…苦しい…空…見てた…急に…眠たくなって…気付いたら…ここにいた…雷太…そばに来た…助かった…どうして…僕…ここにいる?わからない…でも…雷太…星野さん…みんな…一緒…」

涙を零しながら、ポツポツと、さっきの悪夢を話していた。その痩せこけた身体を、時に震わし、だけど、決して荒ぶれる事なく、ディオンのそばで、事の次第を話すその姿は、何かを覚悟したオーラに満ちていた。

「それって、拉致監禁されたって事か?」

「…わからない…でも、お腹空いた…食べられない…辛い…」

「今は、しっかり食べてるだろ?」

「本当に…何も…食べられない…辛い…変なモノ…口に押し込められ…無理やり…美味しいモノ…食べたい…でも…僕の目の前で…僕には…水ばかり…」

「あ、それで水を飲みたくないんだ…だから、味がないと飲めなかったんだね。」

「僕…雷太に…会わな…かったら…諦めてた…生きる事…でも…僕には…」

沈みがちな気持ちに押しつぶされまいと顔を上げようとするが、その度に涙が止まらず、その度にか細い手はありったけの力で拳を握り続けていた。今は思うように動けない事が、食べたいだけ食べられない事が、そして何より、ディオン達に苦労をかけている事が悔しくて…その思いが言葉に、そして涙になって頬を伝っていた。ディオンはただ、そんなJボーイの思いを一つでも理解したくて、だけど、自分達の“素性”を明かさない様に、絶望の淵から立ち直ろうと、生きる事に足掻き続けるJボーイの背中を、撫でる事しかできなかった。だけど、その手の温もりが、今の彼にとってたった一つの拠り所だった。

「そこにいたか…二人とも、ちょっと付き合え。」

ちょうどその時、 ぶっきらぼうに、ヴェルファイアが二人に声をかけた。

「あ、堀川さん…なんですか?」

「いいから来いよ、J…いや、ジュン。今日は寝るなよ。“主役”がヘロヘロのままだと、面白くもなんともねぇから。」

「…じゅ…ん?それ…僕の…名前?」

「さっきの警部…だっけ?あれがお前の事、教えてくれたんだ。まぁ…雷太がつけた名前と本当の名前のイニシャルが偶然合致したって、こりゃ、明日は大雨だな。」

「雷太…知ってたの?」

「いや、僕は全然…堀川さんも、ついさっきですよね?」

「ああ…ま、ともかく、食堂に行こうぜ。」

 「でも…僕…」

普段、ディオンとナージュ以外の人間とは触れ合わないJボーイ…ジュンにとって、本陣寮の医療区域以外に立ち入る事はなかった。未だに自力で歩けない事もあるが、一番の原因は、作業着から漂う肥料の匂い…特に発酵系の肥料特有の匂いで、何度も吐き気が襲うからである。ヴェルファイアに対しても、普段であれば、作業着姿のままで様子を見に来る事があって、その度に、気分が悪くなっていた…しかし、今日に限っては、その原因となる匂いはしなかった。

「いつもは、野良仕事のついでで立ち寄ってるからだけど…今日ばかりは、作業着以外の服を着ろって、場長がうるせーんだよ。」

と、ジュンに対してヴェルファイアはそう答えた。

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第6話。

ビスタの手元に、再び神具が戻ったその日…農園の敷地にほど近い、幹線国道へと続く林道の脇の薮で、首から下が地中に埋まった状態の少年が、今にも息が絶えそうな状態で空を仰いでいた。その少年は、極度の栄養失調と、精神的に追い詰められたのか、髪の色が真っ白だった。朦朧とした意識の中で、今にも降り出しそうな空を見ながら、命が絶えるのを待つしかなかった…再び眼が醒めるその時までは。

 

“…どこ…だ…ろう…”

朧げな意識が、再び光を捉えたのは、どこかの集中治療室のようなトコの天井だった。目線を少し横に向けると、幾つかの管が自分の腕についているのが見えた。そして、何者かが自分に近づく気配を感じたが、身動きが取れぬ少年は、虚ろな眼差しで気配を感じた先を見る事しかできなかった。

「…よかった、気がついたようだね。」

少年にそう声をかけたのは、様子を見に来たディオンだった。

「まるまる、一週間も眠ってたんだよ。一時はどうなるかと思ったけど、どうやら、その様子だと、大丈夫そうだね。」

「…」

言葉を発するだけの体力もない少年は、ディオンの言葉に何かを感じ、それまで強張ってた口元を緩めた。そして急に頬に熱いモノが流れる感覚が走った。

「…そっか、辛い思いをしたんだね。今は、なにも考えずに、ただ、横になってたらいいよ。なにがあったのか知らないけど、でも…今は聞かないでおくよ。キミ、早く元気になるといいね。」

ディオンに頭を撫でられると、安心したのか、再び眠りに落ちた。痩せこけた少年は、その優しさを信じてみようという思いから、手を握り返そうとした。ディオンも、それを察し、両手でその手を包み込んだ。微かにしか動かない、骨と皮だけのような指先に、ディオンの両手はとても暖かかった。

 

それからひと月程経ったある日、少年は、体力を回復させるためのリハビリを受けていた。最初の頃は、極度の摂食障害の影響で、離乳食に近いモノしか口にできなかったが、この頃になると、自分の手でスプーンを持って、少しずつ、ゆっくりと口に食べ物を入れる様にはなっていた。相変わらず、痩せこけたままだが、救助された頃と比べたら、幾分血色も良くなってきた。

「それにしても、名前すら思い出せないとは、困ったモノだな…」

ディオンと、救助に当たったカルタスからの報告を聞いて、ビスタは渋い顔をしながら、少年の調査記録を見ていた。青年には、身元判明に繋がる手がかりが、一切なかった。救護された当時、身体中に暴行を受けた痕跡はあったものの、衣服をなに一つ、身に付けていなかった。そして、手足を後ろに縛られた状態で地中に埋まっていた事もあって、事件に巻き込まれた可能性があった…一応、管轄の警察に捜索願などの問い合わせを行ったが、現時点では、有力な手がかりとなる情報は見当たらない。今の状況でわかっているのは、相当な時間、まともな食事を与えられていなかった事と、現場に首から下を埋められたのが発見される半日前であるという推測、そして、身体を縛り上げていた荒縄は麻製で、おそらく抵抗できない事を分かった上で、なおかつ、完全に動けない様にするために関節部分を重点的に締め上げていた事である。その影響は、少年のリハビリにも及んでいて、未だに握力と腕力が戻らず、脚力に至っては、歩く事すらままならない状況である。不幸中の幸いは、腱や神経に深刻なダメージがなかった事で、他人が自分の手足を触れた感覚は認識できる。しかし、極度の記憶障害があり、自分の名前すらわからないほど、殆どの記憶が消えていた。

「でも、今の段階で無碍にできないでだろ?」

「そりゃ、未だに自分で身動きできるほど体力が戻ってる訳じゃないし、身寄りがないのであれば、安定するまでは保護せざる得ないよ。けどなぁ…」

ナージュの問いかけに、ビスタは腕を組んだまま困った顔をした。それは、国神農園の秘密を、普通の人間に公開する様なマネはできないからである。だが、少年は帰る場所がなかった…自分に繋がる一切の記憶がない彼に、社会復帰が難しい事は予想できた。しかし、ティルタニアンではない、まして、就農経験もないと思われる普通の少年に、ここでの定住は、厳しい事も予想できる。

 

「随分、動ける様になったね、Jボーイ。」

Jボーイ…ディオンが記憶喪失の少年に名付けた、仮初めの名前だ。だが、ディオンにとっては、まるで弟の様な存在に思えた。今は未だ、骨と皮だけな姿だが、どこか自分にも似た、 鼻筋の通った端麗な顔立ちと、細身の割にゆったりとした肩幅は、とても他人には見えなかったからだ。

「雷太…僕…」

「焦っちゃダメ、ここまで動けたからといっても、無理すると体力が…」

「少しでも…動ける…なら…手伝う…寝たきり…嫌だ…」

「気持ちはわかるよ。でも、今のままでは…」

「恩…返す…迷惑…かけたく…ない…」

「Jボーイ、誰も迷惑だって…」

「おい、根岸…それじゃ逆効果だ。J、寝たきりが嫌なら、無茶できるか?」

「…」

「ほらな。今の自分がどういう状況か、よくわかってるじゃないか。J、本気で迷惑かけたくなかったら、体力を温存しろ。今のアンタじゃ、自力で歩く事すら無理なのに、いきなり重労働したら、また寝たきりになっちまうぞ。」

「…だから…手伝う…」

「おいおい、その体で無茶したら…」

ナージュの言葉を振り切って、痩せこけた体を無理やり立ち上がろうと、Jボーイはベッドの枠に手をかけ、足を踏ん張るようにして膝を伸ばした。ただでさえ貧弱な状態で無理をしてる事もあり、立ち上がっただけで肩で息をするほど体力を消耗してるのは、誰が見ても明らかだった。だけど、Jボーイはディオン達に報いたくて壁に手をつきながら、一歩を踏み出す。その瞬間、バランスを崩して前へと倒れこみかけて、その身をディオンが支えた。

「は…離せ……どいて…くれ…」

そう言い切りると、そのままディオンと一緒に倒れこんだ…凄まじく身体中が熱くなっている。

「もう…役…立たず…な…んて…いわれ…たく…ない…」

譫言のように呟きながら、立ち上がろうとするJボーイに、ディオンは何かを察した。

「心配しないで。置いて行かないから、役立たずなんて、ちっとも思ってないから、だから、今は一緒に休もう。でないと、キミ…」

肩に手をやり、そう呼びかけると、その声が聞こえたのか、急に大人しくなった。

「らい…た…?」

「大丈夫…ここにいるよ。」

どうやら、意識が戻ったようである。しかし、急激な体力の消耗をしたせいもあって、自分から体を起こす事はできなかった。ディオンは、自分の上に覆い被さってる様な姿勢になっているJボーイをゆっくりと起こし上げると、下敷きになった自分の身体を抜く様にして起き上がり、そのままJボーイを肩に担いだ。

 

腹ペコアナたちのモグモグパクパクw

ここんトコ、“うまきんⅢ”の関西コーナーで、檜川アナの買い食いを目撃したという投稿が目立つのだが、これに関して当人に代わって言い訳をすれば、京都競馬場へ移動する際、他のアナたちはそこまで苦にせず移動できる位置に自宅があるからどうでもいいけど、神戸の山手や川西などの兵庫県側の北摂地域に自宅がある人は、京阪の京橋駅までに出るのに一苦労する事が多い。そのため、他の人より早めに移動せざる得ない事も多く、朝食抜きで移動してる可能性が高い。よって、必然的に淀に着く前に腹ペコ&疲労度MAXなんてのは予想がつく話で、しかも京阪京橋駅には、そんな腹ペコ族のための売店が、京都方面ホームにも充実していて、電車の待合に食料を購入して食べる事ができるのである。もちろん、JR京橋駅にも立ち食い蕎麦屋やコンビニが充実してるのだが、移動経路を考えると、京阪のホーム上の方が利便性がいいと言って過言ではない。当然だが、阪神競馬場の方が檜川アナにしたら距離が近いからそんな事をせずに済む訳であって、第一、阪急の場合、エキナカのショップは充実してても、京阪と比べたら、いわゆる買い食いに適してるとは言い難いラインナップであるw

ここからが今回の本題、実況アナだって人間ですから、腹が減ってはなんとやらでありまして、結構移動中に軽食や弁当を食べる機会はよくある話であり、また、競馬場や自宅近く、あるいは途中の乗換駅などでの飲食店に立ち寄って一杯…ってのは、意外と頻繁にある話であるw 様々な事情があって、そこに立ち寄る訳だが、少なからずとも、関西の競馬実況アナは、日頃から仕事前に、あるいは仕事明けになんか喰ってる事が多いw(そういえば10年以上前、ラジニケの放送席を見た時に、控えのテーブルに巨大なバームクーヘンが鎮座してたなぁ…w)

閑話休題、では、どんなモノを彼らは食すのか?もちろん、檜川アナみたいに京阪京橋駅の焼きフランクフルト(ホームの売店で焼きたてが買えるのがウリ、一本110円で売ってる。)を頬張る人もいるが、もっと手軽にミックスジュース(これも京阪京橋駅名物w 京阪のジューサーバー自体は、実は東京某駅構内にも店があるんだが…)や缶コーヒーをチョイスする人もいるし、コンビニに立ち寄る人の場合、おにぎりやパンを購入して食べる人もいる。もちろん、ゼリー飲料系のパックを買う人も見かけるが、基本的に、駅構内で電車の待合を利用して食べる事を前提とした場合だと、京橋駅に限れば、そういったスナック系軽食に類は事欠かないw 充実しているからこそ、利用しやすいと言っていいだろう。

さらに長距離移動が必要となる、中京や小倉の場合は、宿泊先の繁華街での飲食はもとより、自宅から当該競馬場までの移動は、ちょっとした旅行である。ゆえに移動のお供は駅弁や酒の肴となる訳で、駅の売店でビールとアテとなる肴をしこたま買い込んで、目的地到着時には、既に出来上がってるなんてのは日常茶飯事w 当然だが、長時間の移動になるため、行きは騒いでも帰りは“お通夜”状態になる事もよくある話。だから、現地での滞在中は、食べる事が唯一の楽しみって人も多い。んなモンだから、食通な人も多く、彼らにオススメの飲食店を訪ねたら、TPOに合わせた店舗を紹介してくれる事も多々あり、そういうトコには必ず、誰かがいる事が多い。(そういや20年ほど前に夏の小倉に行った際、たまたま入ったお好み焼き屋に、それらしき人が、ビール片手に焼きそばを喰ってるのを見かけた様な…誰とは言わんがw)つまり、彼らが買い食いしてるスナックや軽食は、たとえマイナーなモノであっても、味に関しては保証できる代物だって事で…w

京都競馬場と関西私鉄の因縁話w

今回はちょっと放置しまくり状態の京都競馬場に関する話…といっても、正確には、京阪と近鉄と阪急の“究極の因縁話”についてw このブロマガの“本文”から外れたような話だが、ここの部分を解説しないと、少々厄介なことになりかねないからである。
ざっくりと京都競馬場に関する歴史を話すと、今の淀は、大正時代に設置されたコースであり、淀川(宇治川)の三日月湖の地形を生かしてあのカタチになった訳で、一説では、襷コースを設置したくて埋め立てる計画もあったらしいのだが、諸般の事情で頓挫し、現在に至る。ちなみに、ここが中央競馬のコースとなる以前は、長岡京市や向日町に小規模な競馬場があったらしいのだが、立地条件や時代背景的な事情で、当時の主催者(京都競馬倶楽部)が競馬開催地を淀に統一化した…という経緯があったりするw ま、京都の催事(祭礼)には馬は欠かせない存在であり、日本の競馬…以前解説した“くらべうま”の発祥の地とも言えるトコであるから、競馬に関する免疫みたいなモノがあったからこそ、近代競馬のコースが京都市内(と言っても、淀は厳密に言えば洛外エリアなのだが…)に設置できたと言っていいだろう。
で、今でこそ京阪淀駅直結の競馬場となった訳だが、この京阪自身、途方もない歴史の持ち主で、現在の京阪本線がひょっとすると阪急、あるいは近鉄に乗っ取られていた可能性があるという時期があった。そう、京阪の経営陣がアホすぎて、危うく消滅しかけたのである。その一つが、現在の阪急京都線に関する話であり、もう一つが、宇治線交野線、そして近鉄京都線に関する話である。まぁ…阪急に関する因縁話は結構有名だし、ここではちょっと割愛するが、近鉄に関して言えば、阪神なんば線が開通したことによって、実は奈良県在住の競馬ファンが、阪神競馬場へも行きやすくなったのは言うまでもないが、それ以前は、むしろ京都競馬場の方が行きやすかった…というより、そこしか行けなかったという、笑うに笑えない事情があったのである。(それを阻んだのが、大阪市交通局の“モンロー主義”だったりする訳だが…ここでは割愛w)
京阪丹波橋の近くに、今は使われていないポイント痕がある…隣に近鉄京都線が並走していてお気付きの方も多いだろうが、実はこれが今回の話の核心。その昔、実は近鉄と京阪は相互乗り入れを行っていた時期があったんだが、それはこの丹波橋が舞台となる…ま、正確に言えば、近鉄と京阪が合弁会社を設立して開業させたのが、現在の近鉄京都線の前身となる奈良電鉄であり、ここを経由して近鉄西大寺駅京阪三条駅までを結んでいた時代があって、その名残として、乗り入れを行うポイントが設置されたのが、現在の丹波橋付近…ということである。京阪的な本音を言えば、京阪本線から奈良方面へ向かう路線が欲しくて、近鉄的な本音を言えば、京都中心街へつながる路線を開拓したくて、その双方の利害が一致したこともあって、そういうことをやってた訳…なんだが、なにせ沿線に国鉄(現:JR西日本)奈良線が並走してて、乗客の取り合いになったことと、資金繰りの悪化で京阪の方が経営的に根を上げた(正確に言えば、滋賀県エリアでの子会社運営に軸足を置いていった)…そこで経営の立て直し策として京阪が奈良電鉄の経営から手を引き、その株式を近鉄がすべて譲り受けることで会社そのものを吸収合併し、現在の近鉄京都線へと変貌するのである。そして、相互乗り入れもやめたのである。これにより、近鉄京都市中心街に再び乗り入れるのに、京都市交通局地下鉄烏丸線の開業を待たざる得なくなるのである。でもって、京阪は奈良への路線拡大と、現在のJR京都駅接続を諦めたのである。
つまり、もしも京阪が完全に鉄道事業に対して、もっと積極的に阪奈間の開発を行っていたら、現在の近鉄京都線は、京阪の子会社による運営になっていたのと、交野線宇治線と接続して“京阪奈環状線”を作り上げていた可能性がある。あ、そうそう、交野線自身も元々は、近鉄の子会社が作った路線であって、それが消滅した事によって、京阪が吸収した路線と言っていい。で、話を阪急に振り直すと、現在の阪急京都線は、本来であれば京阪の新線として開業・運用されてたんだが、戦時下のどさくさに阪急が京阪からの譲渡を受けて現在に至る訳で、このどさくさがなければ、京阪は阪急、または近鉄に吸収されていた可能性がある。ぶっちゃけ、南海もそうなんだが、関西大手私鉄で、阪急と近鉄に世話にならなかったのは、どこにもないと言っていいw(阪神ですら現在は、ある意味阪急と同じグループ会社ですからw)もっと話を深いトコですれば、小林一三と佐伯勇という“関西の二大鉄道王”のガチンコバトルに
一番巻き込まれたんが京阪であり、んでもって、阪急が絡んだトコでは競馬が、近鉄が絡んだトコでは競輪が、なぜか珍重されている部分がある。(その逆をいえば、阪急では競輪が、近鉄では競馬が、なぜか見下されているw)そういう意味では、今後の公営ギャンブル…特に関西での存廃問題は、近鉄と阪急の“皮算用”的なトコが働く可能性が高いw

言い違いとボカロ実況…スポーツ観戦を楽しむのに、何が必要か?

今日の“Charge for Weekend”での大関アナの意見…というか、本人の思考に対して、オイラから言える事は、リスナーの意見を参考にしても、それにまるまる乗っかかるな…って事である。確かに、言い間違いや見間違いは、競馬ファン、および関係者に多大な迷惑をかける事になるだろうが、それはあくまで“情報”としての“実況”であり、それでいいのであれば、何も生身の人間の肉声で実況を行う必要はない。ホレ、人気のゲーム実況動画でも、ユーザーの生身の声か、あるいはボカロや棒読みちゃんなどの擬似音声ソフトを使用するかで好みが分かれるかと思うが、リアルタイムでの瞬時の判断で実況する技術が必要であるなら、現時点でボカロ系の音声ソフトで競馬実況を行うには、それに似合うだけの文字入力と音階調整の自動化が不可欠であり、録画再生で実況するにも、その速度を調整するにも人間の生身の声の様にはいかない。要するに、感情を押し殺す様な、しかも淡々とした感じで音声ソフトによる“いい間違いのない”実況を聞いて、果たして競馬だけに限らず、様々な競技を楽しむ事ができるか?
人間とは、結構“無い物ねだり”をやる習性があり、それを如何反映させるかに心血を注いで、時間を無駄にすることが多い。もちろん、それ自体が“悪い”訳ではないが、あまりにもそういった“細かいこと”に拘りすぎて、肝心な“本文”を見失って失敗するケースが多々あるから、結局、生まれ持った才能を“無駄”と切り捨て、そして“何もできない”というジレンマに陥る。成功する人の殆どは、いろんな意味で“他人の意見”は“無視する”傾向がある。つまり、自分のやりたいスタイルを貫くために、敢えて相手の意見を参考にしない…ここで勘違いして欲しくないのは、だからと言って、単純に批判や苦情を無視するのではなく、できないことを要求された時に、はっきりと自分の意思で“できない”と答えられるほどの度量と、無茶振りする相手を納得させられる技能を見せ付けられるかが全てと言っていい。言い方を変えれば、“言葉の職人”としての技能が認められた実況アナでも、ヒューマンエラーを完全にコントロールできるほどの能力は有してないし、もしそれを求めるのであれば、自らがその手本を見せて、これをやれるか訊ねてみる事が最低条件となる。ド素人が生半可な知識や優れた聴覚を振りかざして、現役実況アナを罵る事は、単なる僻みと悪口でしかない。
もちろん、だからと言って、実況における“失敗”を言い訳するアナウンサーは、どんなに気さくで心象がいい感じの人物であっても、“言葉の職人”としては“失格”である。ただ…それゆえに人格まで否定してはならないし、まして、ちょっとした言い間違いや、疲労からの呂律が回らなくなって舌を噛む様な状況までも許さない様な者は、先日の情報番組のとあるコーナーで暴言吐いた解説者同様、失礼千万である。特に外来語に関して言えば、日本語表記(カタカナ)に置き換えて、正確に発音できてこそ…と考える人ほど、実は言語学を舐めてるとしかオイラには思えない。なぜなら、英語やフランス語、北京語等の外国語を普段から使っている訳じゃないのに、それをいきなり“早口で発音してみ?”と言われ、咄嗟にできるか…いくらプロのアナウンサーといえど、普段使いで外国語を喋れるとは限らないし、まして、大御所クラスの実況アナでも、外来語カタカナが“苦手”だという人は結構いる。(解説者でも変な発音で爆笑を誘う人、結構いますからねぇw)今の若手アナの場合、英語に関してはともかく、肝心の日本語の発音がおかしい人が多いのに、中堅・ベテランに対して、外来語の発音にケチつける時点で、お察しである。さっきも書いたが、人間である以上、ヘンな失敗はよくある話。それをも許せないのであれば、ボカロ等の擬似音声ソフトを駆使して、実際のレースや試合を実況してみたらいいだろう…完璧な発音で、アクセントで、試合を実況できたとしても、それを聞いてる人間に、その現場に漂う“リアルな感情”まで伝える事ができるか?生身の実況アナが、実況中にトチったりするのも、それは分相応の緊迫感や試合展開であったからこその“証明”であり、そこを排してまでも言葉の発音の正確さや聴きやすさを求めるのであれば、ラジオであれテレビであれ、何も生放送に拘る必要はないから、擬似音声ソフトによる実況もアリとなる。けど…それゆえに各放送局とも、実況アナによる特色がなくなるだけでなく、味気ない放送になりかねない。(もちろん、ネット環境に慣れた人なら、むしろこっちがいいと思う人もいるとは思うが…)
もちろん、言い間違いをチマチマと指摘するのはいいが、だからと言ってつまらない“揚げ足取り”ばかりしてると、特色を活かせる実況がつまらないモノに様変わりするし、どんな名実況も“迷実況”として叩くことになりかねない。本気で“いい実況”を求めるのであれば、些細な失敗には目を瞑り、単に感情的にならずに、さりとて現場の臨場感をも伝えられる技術を磨くように求めることが、ファンと称する者ができる指摘ではなかろうか。

NHKの“ヘンチクリン”なプライドの話w

過日、Twitterのフォロワーさんと、NHKに関する雑談をやったんだが、誤解を招かないために自己弁論させてもらうと、同じNHKアナウンサーと言えど、入局時からアナウンサーとして訓練を受け、番組制作に関わっている人と、報道部を含めた他部署からアナウンサーに転職して現在に至る人がいて、それゆえに同じ“NHKアナウンサー”といえど、感覚そのものが全然違う人がいる…この件に関しては、今から13年前に寺谷一紀アナが、NHK退局後すぐに、自費出版に近い格好で著した本“ぼくがなにわのアナウンサー”で、自身の体験談として記載してる部分がある。まぁ…この人に関しては、オイラの本家Blogの解説を一読してもらうとして、今回の本題、NHKアナであるが故の“ヘンチクリン”なプライドに関する話。
ご存知の通り、NHKのアナウンサーは“日本語の使い手”としてのプロ意識が高い。が、それはあくまで、入局時からアナウンサーとして訓練を積んだ連中に多い部分であり、寺谷アナのように、もともと畑違いなトコ(報道含む)から諸般の事情でアナウンサーに転向した人の場合、タマに方言の修正をせずに“暴走”する人もしばしば見かける。(特に関西出身のアナウンサーは、ガチで関西弁で押し通す人がいるからなぁ…w)実は、これが問題なのであり、民放のアナウンサーなら“それも味”として見逃せる部分でも、NHKのアナウンサーは、常に“全国共通”を意識した話口調を肝としてるため、癖の強い方言は、一番“嫌われる”スタイルである。ゆえに、地方局所属で、しかも“地元出身”という事で所属地元言葉で喋るアナウンサーは、正直“絶滅危惧種”的存在であり、地元で愛される反面、全国区として売り出すには、それゆえに“NHKらしくない”と批判される。そのジレンマが常に付き纏うため、どうしてもNHK出身のアナウンサーは、総じて“方言下手”な人が多いように思われがちである。しかし、同じNHKアナウンサーと言えど、デビュー時からアナウンサーとして訓練を受けた連中と、他部署から転向してアナウンス業務を行っている連中では、日本語に対する、全く“正反対”な心情が存在する。それが、方言に関する考えであり、アナウンスの訓練を受けた者にとって、“方言は正しい日本語に非ず”という概念があるが故に、たとえ自分の出身地の局に配属されても、発音上“お国言葉”を封じて喋る事に徹する。相対して、アナウンスの訓練を受けずにアナウンサーへ転向した者は、むしろローカルでやるなら“地元言葉”で喋った方が理解されやすいという、確信にも似た感覚がある…この“ズレ”こそが、NHKアナウンサー達にある“ヘンチクリン”なプライドの“正体”と言っていいだろう。双方の意見は、実は“一番正しい”概念であると同時に、それゆえに“一番間違った”感覚といって過言ではない。
では、真の意味で“正しい日本語”とは何か?こういう話をすると、このブロマガの趣旨から外れる事なのだが、言語学的な事で言えば、“誰に対して話しているか”という部分さえ失念していなければ、俗にいう“標準語”であろうが、“お国言葉”であろうが関係ない話である。だが、日本の教育現場において、“正しい国語力”を学ぼうとすれば、自ずと“標準語”が主体となる訳であり、その“見本”と言えるのが、NHKのアナウンス技術となる訳であり、故にNHKのアナウンサーであれば、徹底した“標準語”としての発音が求められることになる。だから、これを“手本”とした旧来の民放アナは、総じてNHKのアナウンサーに近い話し方を“目標”に掲げて、また、NHKのOB・OGを“師匠”として訓練を受けた訳である。これに対して、真っ向から否定し、“お国言葉でもええじゃないか”としたのが、関西の放送局に在籍するアナウンサー達で、また、そのリード役を果たしたのが、NHK出身でありながら関西弁…特に摂州弁をキーに据えた“関西標準アクセント”を開発して普及させた、生田博巳アナである。この生田アナ自身、神戸出身だったからこそ、関西人なら関西の言葉で話した方がいいと考えた人であり、そこに徹する為に、本局異勤を断った挙句、関西の放送局を転々とするフリーランスに転向した、草創の人である。
まぁ…長々と解説したが、要は同じNHK出身といえど、生粋のアナウンサーと他部署からの転属アナウンサーとでは、同じ“日本語を大切に思う気持ち”があっても、その概念や感覚にズレがあって、それゆえに意見が真っ向から対立したまま、今日に至ってるのが現状であり、ゆえに、自分の出身地の人へインタビューする時に、ついつい“お国言葉”で返そうとして言葉を詰まらせる事がある訳である。(有名なエピソードとして、武田真一アナが集中豪雨に見舞われた熊本の役場職員の肥後弁に釣られて、それを標準語に置き直そうとして言葉を詰まらせたことがある…ちなみに武田アナは熊本出身。)いくら文科省が“方言も日本語”という教育方針の転換を呼びかけても、その手本たるNHKアナウンサーが“標準語”に固執するのは、ある意味仕方ないトコでもあるんだが…

ルメール騎手の“騎乗停止”の件について…

シン(以下シ):ブロマガをご覧の競馬ファンの皆様、ご無沙汰しております、シンです。迷馬さん経由で得た情報なのですが、今年から外国人騎手2名が、中央競馬の通年での騎手免許を取得したのですが、そのうちの一人、クリストフ=ルメール騎手が、いきなり9日間(3月1日〜29日)の騎乗停止処分を受けました。もちろん、その理由として、調整ルームでスマートフォン経由でSNSTwitterで外部と連絡を取ったという事ですが、この件に関して、俺ともう一人…この方に登場してもらって、解説していきたいと思います。
潤平(以下潤):ブロマガユーザーの皆さん、初めまして。潤平と申します。えっと…“生前さん”については、僕の名前で察してください…w ところで、ひろ…じゃなくて、シンさん、その外国人騎手がやった行為って、日本中央競馬会競馬施行規程第147条の19、あるいは20の項目に該当しますね。
シ:はい、当人としてはたまたま電源を切り忘れた挙句、うっかり相手側の返信に答えてしまったことが、今回の制裁となったようです。
潤:これに関して詳しく解説すると、騎手は調整ルームに入ると、いかなる事情があっても、競馬開催終了、あるいは、怪我や他場への移動などで当該競馬場を離れるまでは、外部との連絡は、一切行ってはならないという規定があります。競馬に限らず、公営競技の関係者は、開催時の公平なレースを行うための措置として、類似の規定があります。
シ:つまり、八百長防止の観点から、全レース終了まで、騎手は情報から隔離された状態になっている…と解釈していいでしょうか?
潤:厳密に言えば、僕らの方から発信する事に関して、厳しい制限がかかってると考えてもらえればいいかと…
シ:つまり、今回の場合、Twitterで返答を行わなければ、問題がなかった可能性があると考えられるんですね。
潤:語弊が無い様に言えば、携帯の電源さえ切っていれば、そもそもこういうことにはならなかったと考えていいでしょう。但し、メールやSNS…でしたっけ?それを閲覧する程度ならともかく、そこに返答をすること自体、競馬と関係ない雑談であったとしても、嫌疑をかけられても仕方ないと思います。
シ:こういうトラブルって、昔からあったのでしょうか?
潤:僕自身は、そういう場面に遭遇した経験がないんでなんとも言えませんが、古い競馬ファンなら、一部の社会不適格者からの依頼で八百長をやって、関係者が逮捕されたケースもあるようなので、ご存知の方も多いのでは?最近だと、地方競馬の方で、関係者を装った一般人を調整ルームに連れ込んだとして、1ヶ月の騎乗停止処分が下ったケースがあるみたいですね。
シ:これもこれで、やはり公正な競馬開催を行う上での障害とみなされるのですね。
潤:あくまで、制裁となっている理由が、外部との接触であり、そこで不正行為を行うよう強要されている可能性があるとみなされるためであって、また、情報の漏洩を未然に防ぐ目的もあるため、違反した場合、たとえいかなる理由があっても、罰則の対象になるのです。ただ…身内の不幸とか、非常事態に関する内容の場合、話は別になりますが…
シ:この他にも罰則規定に該当する事案はありますか?
潤:一般的な犯罪も、当然ながら罰則の対象になります。ただ、競馬開催時の関連ではなく、刑法に抵触し、逮捕された場合は、より重い制裁を科されることになります…薬物乱用や交通事故など、直接競馬とは関係がなくても、警察沙汰になった時点で、無期限の騎乗停止や資格の剥奪などが科される場合があります。当然ですが、公営競技での八百長は言語道断で、当事者、および該当する関係者は全員、処罰対象となります。それを防ぐ観点から、競馬関係者は開催時において、情報管理に対する厳しい規制がかけられた状態で、競馬が施行されるのです。

シ:少々、大雑把なカタチにはなりますが、今回の件についての解説は、ここで終了させていただきます。
潤:ところで…最近“こちら”の方に、なんか騒がしいのが来たみたいだけど、どうされます?
シ:…その件については、後日改めて紹介することにしましょう。それではこの辺で失礼します。