迷馬の隠れ家〜裏別館〜

旅好き・馬ぐるみゃー・オジアナヲタクな主婦の気まぐれBlogですwこちらは、雑記専用となっております…

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第15話。

フェリム邸に到着する頃、そこに先客が来ていることに、ミゼットは気付いた。庭園に面したテラスの片隅に、見覚えのある人影があったからだ。

「…渉君、元気にしてた?随分と大きくなったね。」

「クマさん、お久しぶりです…直也さんも。」

そこにいたのは、アスコット=クーガ…今は桧山渉と名乗っている、ジュンより少し年上の青年だった。

「ああ…彼が件の子ですか。初めまして、ボクのことは“あゆむ”でいいよ。」

と、ジュンに話しかけると、

「あゆ…む…それ、君の名前?僕…みんなからは“ジュン”って呼ばれてる…けど、僕には…その記憶も、何も…ない…」

「一応、話は直也さん達から聞いてるよ。記憶が消えてしまうなんて、相当、酷い目に遭ったんだね…」

ジュンの答え方に対し、アスコットは同情した。

 

 「お茶のおかわりはいかがですか?望月様。」

せっかくだから見晴らしのいいテラスで、午後のティータイムと洒落込もうということで、テーブルを出して、特製のスイーツをいただきながら談笑をすることにした。ジュンは、初めて執事に苗字で呼ばれ戸惑ったが、すかさず、

「柳原さん、普段は苗字で呼ばれる事がないんで、そこんトコは“ジュン”って呼んでやってよ。」

と、カルタスが言付けると、

「ああ、これは失礼しました…旦那様の方から、名字の方で呼ぶよう言い渡されていましたから、以後、気を付けます。」

と、目が笑っていない笑顔で返答した。

「ますます、人間離れしてませんか?」

ミゼットのツッコミに対し、

「そうですね…少なからずとも、国神様ほどではないと自負してますが…」

と、ちょっと辛辣な答えが返ってきた。柳原という名の執事…今でこそ見た目は人間の姿をしているものの、ビスタ達が初めてフェリム邸に来た頃のそれは、機械的な動きしかできなかった、一種の“からくり人形”に過ぎなかった。しかし、様々な人々が出入りするようになって、改善を進めるうちに、より人間らしい仕草を覚え、振る舞いも、生身の人間っぽくなってきたのである。しかし…

「…ロボットなのに、不自然さ、感じない。」

と、ジュンは執事の“正体”を見抜き、そう呟くと、

「これは、参りましたね…私めをそう見破るのは、秋人坊っちゃま以来のことですな。」

と、苦笑いする仕草を見せた。

 「機械油の、匂い?ほんのりだけど…執事さんから、感じたから…もしかしてと、思っただけ。」

と、ジュンが答えると、

“さすが異常嗅覚…”

と、その場にいたティルタニアンが呆気にとられた。しかしそれは、執事の異変に、ジュンがいち早く気付いていたことになるのは、一緒にお茶を飲んでいた努が、

「柳原…ちょっと休もうか?」

と、執事に声をかけた事がきっかけとなる。

「旦那様…私めは大丈夫で…」

「さっきから、焦げ臭い匂いがしてるぞ。ひょっとして…肩部の動作がおかしいのは、そのせいか?」

と、問い詰めた途端、何かがパチパチと弾ける様な音を立て、双腕から白い煙が上がった。

「…やっぱりな。無理矢理ながら、ジュンを守護から借りてきて正解だったよ。メンテはやってたんだが、ここんトコ、コイツ、嘘付く事を覚えたからなぁ…執事と言っても、生身の人間以上に仕事すれば、壊れるってことを、全然理解してないからな。」

と、呟くと、膝から崩れる様に、急に電源が落ちて倒れこんだ。

「わちゃー、柳原の旦那…どうもこの数日間、様子おかしいと思ったら、いきなりですかい?旦那様。」

騒ぎに気付いたのか、庭先で手入れをやっていた、もう一人の使用人らしき者が努達がいるテラスにやってきた。

「悪いな、魚崎…コイツ、俺のラボに運んどいてくれないか?久々にオーバーホールしようと思った矢先にコレだからなぁ…」

「わっかりやした…あ、ついでにあっしの方も、診てもらえやしませんか?どうも最近、腰回りに疲労が溜まってる様で…」

魚崎という御庭番が答えると、

「この人…獣の匂いするけど、さっきのロボットと違って、機械系の匂い、しない…」

と、ジュンが答えた。

「おい、魚崎…またイノシシとぶつかっただろ?潤滑系に異常は認められないが、念のために調べておこう。但し、異常がなかった場合は、即時に業務に戻れよ…お前はお前で、変にサボるクセがあるからなぁ。」

努が苦い顔しながら睨み付けると、壊れた執事ロボを担ぎ上げて、一目散に何処かへと姿を消した。

 

フェリム邸からの帰り道、ジュンはカルタス達に使用人の姿をしたヒューマペット…特殊生体CPU搭載のロボットの事について、簡単な説明を受けた。

「元々は、単純なからくり人形のシステムだったんだけど、フェリム邸を管理維持するために、様々なセンサーを館内に設置するよりも、人型のロボットが随時巡回する様にした方が、対人侵入被害に有効ってことで、開発されたのがきっかけであり、そのうちの5体が、館内での接遇や家事全般を行う様に特化してあるんだ。」

「5体のうち柳原さんと、その代理で来た女性型の御影さんは、執事や家政婦として接遇を専門的に、魚崎さんは庭園の管理担当として、剪定や害獣駆除をやっていて、他に湊川さんと須磨さんは、普段は表に出ないけど、邸内で供される料理は、基本的には湊川さんが担当してるんだ。」

「ま、須磨さんは、掃除や防疫とかがメインだしね。」

二人の話を聞きながら、フェリム邸で感じた違和感に、何となくジュンは納得した。

「だからあの館、人の気配がなかったんだ…でも、何となくだけど、居心地よかった…何でだろう?」

その疑問に対し、ミゼットは、ちょっとした仮説を立てた。

「多分…ジュンの経験が、そう感じさせているんだと思うよ。僕らは詳しい事は知らないけど、相当酷い目に遭った経験から、人間そのものに対する不信感があって、だから僕らですら、ジュンは警戒して身構えるだろ?」

「雷太と隼は、いつも一緒だから…でも、杭全さんや吉野さん…普段、顔合わせる事ないし…堀川さん…怖い…」

「ああ…わからなくないね。見た目だけだと、スキンヘッドで眉間に皺寄せた顔だもんな。けど、見た目と裏腹に…」

「だけど…怖い…」

“あの一件で、完全に誤解された上に、嫌われちゃってるよ…ヴェル、気の毒だよな…”

ジュンの一言に対し、二人はヴェルファイアに同情するしかなかった。

 

「まったく…これじゃ、完全に作り変えないと、業務に支障が出るぞ、柳原。」

『申し訳ございません、旦那様…まさか、ここまでガタが来てるとは、露にも思いませんでしたから。』

フェリム邸の地下にある、ヒューマペットのラボでは、動作不能となった柳原が、努に説教されながら修理が可能か、点検を受けていた…どうやら、現行の筐体での復旧は無理という判断に至ったようである。

「長い付き合いと言えど、この機体になって、既に30年が経過してる…部品を交換するにしても、短時間でまた、動作不能になるのだったら、丸々、新しい筐体に移植しないとダメだ。魚崎の場合は、過酷な環境下での使用するから、元々壊れる前提で作ってっから予備も多いが、お前さんや御影の場合、そこまでの無茶をさせる様な設定じゃないからなぁ…御影の部品で間に合わせようか?」

 『いや…それは旦那様、私めは成人男性の筐体用ですから、そこは魚崎か須磨のパーツで…』

「何言ってやがる、“からくり人形”の分際で、オスとかメスとか気にすんなよ。」

『いや…それを言われましても…』

「冗談だ。ベースとなる人格が違う上に、共通パーツがあると言っても、見た目が変わったら、誰もが怪しむだろ?」

『いやはや…ただ、私めは、あの筐体が気に入ってまして、できれば使い続けたいのですが…本当に無理なのでしょうか?』

「どんなに頑強なフレーム素材であっても、生身の肉体じゃない以上、経年劣化による摩耗や損壊を、自己回復する事は不可能だ。だからこそ、定期的にパーツ交換や、場合によっては作り替えも必要となる…って、100年前に言わなかったか?」

『旦那様…もちろん、その事を覚悟した上で、この様な姿になった訳ですから、後悔はしておりませんぞ。しかし…』

「だったら、その時と同じ様に受け入れろ…少しでも耐久年数が伸びれば、そういう愚痴を、俺も聞かなくて済むんだしな。」

そう呟くと努は、モニター上の仮想世界から話しかける柳原を黙らせた。そして、人体骨格標本の様な筐体から、制動に必要な“パーソナル”というコアCPUシステムを取り出すと、前もって用意してた、新しい筐体に挿入した。

 

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第14話。

数日後、月に一度の定期検診を受けるため、ジュンはいつもの部屋で待機していた。ただ…ちょっと様子が違うのは、普段はジャージとTシャツだけの格好で受診するのに、今日に限っては、この日のために設えた様な、とある私学の学生服が用意されていた。

「所長が言うには、セカンドオピニオンとして、きちんとした医療機関での受診もやった方がいいって事らしいんだ…で、単なる定期検診だってのに、普段と違う場所に出向くからって事で、一張羅を厚らっておけって言うからさ、色々大変だった訳よ。」

と、不思議そうにしてるジュンに対して、カルタスがそう答えた。

「先月の検診…これ作るための、採寸だったの?」

「そんな事ないよ…身体測定はいつもやってるだろ?それに、血液検査や感覚検査とか…」

「でも、この服…初めて着るのに、すごく身体に馴染む様な…だけど、どこか硬い様な…」

ジュンが戸惑うのも無理のない話で、押熊警部がガサ入れした際に見つけた、ジュンが受けるハズだった高校のパンフレットに掲載していた制服の画像を参考に、特別に用意したのである。しかも、身体測定のデータを用い、正確に、ジュンの体型に合わせた型紙を作り、ミゼットが3日掛りで裁縫した、完全なオーダーメイドの逸品である。

「流石に骨が折れたよ…ジュンは標準的な高校生に比べ、全体的に細いから、スーツはともかく、カッターシャツが歪になりやすいんだよなぁ…」

そうボヤくが、出来栄えは上々である…錬成術で作るのは容易くても、敢えてフルオーダーメイドで一式を作ったのには意味がある。そう、安易にジュンの目の前で錬成術や、時空術を用いずに、いかに“普通のアーシアン”としての生活をやっている様に装うためである。だから、必然的に様々な職種のスキルが必要となる。ミゼットはかつて、偵察任務の際に、小さなテーラーに出入りしていた経験があり、その際に本格的なスーツやジャケットの裁縫を学んでいた。そのため、今でも折に触れて、みんなの普段着仕様のスーツやジャケットを作ることがある。ただ…最近は専ら、ヴェルファイアの趣味に付き合わされ、アニメのコスプレ衣装を作る機会の方が多いのだが。

「でも、まあ…これなら高校生に見えるから、普通に街中を歩いていても、大丈夫っしょ。」

と、一応の手応えは感じてる様なので、満更でもないのかもしれない。

「でも…なんで、この服じゃないと…ダメ?」

「それは、この農園の外に出るからだよ…しかも、人が多い都会に出る以上は、気合い入れないとな。」

と、カルタスはジュンに答えた。

 

街へのドライブは、救護されて以来、初めての経験ではあったが、変わり映えしない本陣寮の敷地より外に出る機会がないジュンにとって、とても刺激的な事ではあるのだが、言い知れぬ緊張感が、顔を強張らせていた…

「多分それ、期待と不安で、ワクワクしてる感情なんだと思うよ。」

ミゼットがそう声をかけると、

「これが…ワクワクする…感覚…?」

と、ジュンは理解に苦しんだ。

「無理ないか…感情すら、失ってしまうほどの酷い目に遭ったんだからなぁ。普通なら、外に出ることに対して、ときめいたりするモノなんだけどね…」

「とき…めく?どうして?」

「そりゃ、いつもと違う場所に行くこと自体少ないジュンにはわからないだろうけど、見知らぬ街や風景に出逢うこと、普段と違う場所で、普段じゃ体験できないことをやるのは、不安よりも、これからの期待や結果に対する希望があると、信じてるからだよ。ジュンには、そういう思いはないのかい?」

ミゼットの問い掛けに、ジュンはますます混乱した…その様子を、バックミラー越しに見ていたカルタスは、ハンドルを握ったままこう答えた。

「想像できなくてもいいんだよ…今は理解できなくても、自分自身が求める答えを探しに、一歩でも外へ出ることが、今は大事なんだから。踏み出す勇気は必要でも、不安で仕方ないから戸惑うんだ…でも、前に進むのは、その勇気で不安に打ち勝った者だけができることなんだよ。」

その言葉に、ミゼットはハッとした…そう、今回の目的は、努がいる健凰会病院での検診を口実に、農園以外の外の空気に触れさせ、少しでもジュンに人間らしい感情や表情を取り戻せるよう促すのが狙いである。そうこういってる内に、クルマは健凰会病院の駐車場に到着した。都市部から少し離れた、小高い丘の上に建てられた真新しい感じの病棟は、廃校利用の本陣寮に比べると雲泥の差である。

 

「…とりあえず、今回の詳細データは、国神さんに送っとくよ。完全とは言えないけど、随分と回復できたモンだな。」

ビスタから受け取ったジュンのカルテを見ながら、今回の検診の結果に対し、努は目を細めながら応えた。

「この調子でいけば、完全な社会復帰も可能だろう…が、そのためには、様々な人との交流経験が必要になる。しかし、君の場合、嗅覚が異常に鋭いため、ちょっとした香水や制汗剤…要は汗の匂いや様々な人工的な匂いに対し、鋭敏になり過ぎてるトコがある。」

「そう言えば…農園内の匂いに関しては、多少慣れたのもあって、そんなに拒絶する様な事はなくなったけど、ここに入る際、何かを気にしてる様な仕草をしてましたね。」

「恐らく、様々な化学薬品の匂いが充満してる場所だから、落ち着かないんだろうね。」

「俺にはさっぱりだが…ジュンはそれ、感じてるのか?」

と、カルタスが尋ねようとしたら、ジュンはしきりにハンカチで鼻を押さえる仕草をしていた。

「やはりな…ここじゃ話にならないんで、フェリム邸の方に移動しよっか。」

「蘇芳さん、大丈夫なんですか?本職そっちのけで、僕らに付き合うのって…」

「心配いらんよ。ここ自体は院長と言っても肩書きだけで、実質は現場のスタッフに任せている…俺は基本、ここにはいないことになってるんでね。」

ミゼットの心配をよそに、努はその場で白衣を脱ぎ、ジュンに近づいた。

「その過敏な嗅覚は、いずれ、いろんな場面で役に立つ。だが…ここじゃ強過ぎて、鼻が痛いだろ?悪いな…だが、今からいいトコに連れてってやるから、もうちょい我慢してくれよ。」

と、声をかけると、使い捨てマスクの様な形状のモノを手渡した。

「そいつは、特殊フィルターで匂いの原因物質をブロックする、特殊繊維で作られている。未だ開発途中のシロモノだが、ちょっとはこれでマシになるだろう。」

努からの説明を受け、ジュンは試しにマスクを着けてみた…すると、今まで苦しそうにしていた仕草を、止める事ができた。

「お、やはり過敏な嗅覚には、それは必須だな…とりあえず、病院出るまでは着けといた方がいいだろう。」

「本当に…助かる…さっきから、焼ける様な匂い、感じてた…あれは苦しい…」

ジュンがそう答えると、カルタスとミゼットは互いに目を合わせ、肩をすくめた。

 

フェリム邸までの道程の中、一旦、港町に立ち寄ることにした。匂いに慣れさせる事と、程度の実験を兼ねて、マスクを外させた。すると、

「よくわからないけど、懐かしい匂い…あの、さっきまでいた、白い建物と違って、息苦しさないけど、でも…匂いが濃い。」

と、答えた。

「海の匂いだね…けど、ここは貿易港と工業地帯だから、自然の海岸よりも空気が汚れてる上に、様々な匂いが混じってる。でも、ここの匂いは平気かい?」

「長い時間…無理。でも、嫌いじゃない…これが、海の…匂い?」

「だろうね、いきなりこういうトコの匂い、嗅いだ記憶もないと、キツいよなぁ…」

「でも…大丈夫。白い建物…吐きたくなる様な…強い…プレッシャー?何か、すごく…居た堪れない…」

「ああ…やっぱ化学薬品に敏感なんだな。」

「農園も…あの匂い…えっと…農薬?あれ、苦手…」

「農薬は極力使わない方向で運営してるけど、たしかにエグいよな、慣れないと。」

「今日の吉野さん、杭全さんから…刺激強い感じの…臭わない。いつも…強いから。」

「そりゃ、今日は外に出るからね。普段の作業着のままだったら、単にみすぼらしいしね。」

ミゼットがそう答える横で、カルタスはジュンと一緒に目の前を行き交う船を見ていた。

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第13話。

騒動の翌日、いつもと違う部屋にいることに、ジュンは気付いた。彼は普段、病室の様な部屋で一人、ディオンが様子を見に来るまで、じっと天井を見ていた…救護されて以来、嗅覚過敏なこともあって、自分の部屋以外、滅多なことで出入りすることはなかった。だから、ここが“自分の部屋”じゃないことはすぐに理解できたが、なんでここにいるのか、訳もわからず困惑した。しかし、自分が寝ているベッドの横で、疲れた顔して寝入っているシーマの姿を見て、ここがシーマの部屋だと理解した。ほのかに、メントールの様な匂いが漂っている…その正体が、実はシーマ自身の体臭だとわかるのは、相当時間が経ったのちの話になる訳だが。

「あれ…隼、僕、ここで…寝てたの?」

寝ぼけ眼でジュンが声を掛けると、急にシーマは飛び起きた。

「ご、ごめん…最後まで送るつもりだったのに…なんか、ごめん。こんな雑多な部屋に、君を寝かすなんて…その…」

「いいよ…僕も、昨日は、何が起きたのか…さっぱり…覚えてないから。」

慌てるシーマに対し、ジュンは淡々と答えた。どうしても無表情な答え方しかできない、ジュンはむしろ、表情豊かなみんなの姿が羨ましかった。あの事件以来、無邪気に笑うことも、素直な喜びを表現することもできなくなった自分が、どうしても悔しくて仕方なかった。本当は嬉しいのに、本当は笑いたいのに…だけどその度に、表情が引き攣って、ただ涙を流すことしかできなかった。だから、無表情にきょとんとするしか…じっと相手の表情を見てることしかできなかった。

「そっか…そうだよね。あんなことが急に起きたら、理解なんてできないよね。」

「隼…あのね…僕、ここにいて、いいの?僕、本当に帰る場所って…どこにあるの?」

「え…急に何言ってるんだい?ここは僕の部屋…じゃなくって、帰る場所って…」

 ジュンの唐突な問いに対し、シーマは答えに苦慮した。そこに、

「何だ、尾崎んトコにいたのか…」

と、いつもの部屋にいないジュンを探しにきたディオンが、ひょっこり顔をのぞかせた。

「あ、根岸先輩…すいません、僕、ちゃんと部屋に送ってやるべきだったのに…その…」

 「その件については、すでに吉野先輩から聞いてるよ。それよりジュン、よくまあ、こんな部屋で平気で寝てられたなぁ…」

「雷太…教えて。僕、どこに行けばいいの?僕の帰る場所って、どこにあるの?僕は、一体…何者なの?本当に“ジュン”って名前なの?」

矢継ぎ早に質問するジュンに対し、ディオンは顔色変えずに全て聞き流した。そして…

「それは、自分自身が決めることだよ、ジュン。キミが、キミである以上、どんな名前だろうが、種族だろうが関係ない…もし仮に、この名前も偽りだとしたら、キミ自身の純真な心から、僕らが付けた名前だと考えたらいいよ。」

と答えた。その言葉にシーマが一瞬躊躇ったが、ディオンのアイコンタクトに気付き、冷静さを装った。

 

その頃、ビスタとナージュは、これまでのジュンに関するデータを精査していた。警察から得た捜査記録と、救護してからの療養データ、そして、マーグが持ってきた生体検査の詳細…これらをもう一度、きちんと再調査する必要が出てきたからである。

「それにしても…これは盲点だったな。まさか、監禁された理由が、単に身代金目的ではないとは。」

意外な事実が解った事で、ナージュは驚きを隠せなかった。

「犯人の居所を探るのは簡単でも、ジュンの家族が、まさか“異界の民”だなんて、誰が想像つくんだよ…」

「正確には、その子孫…って事だよ。しかも僕らと同じ、ティルタニアンな訳で。」 

ビスタは、生体検査のデータから導き出された結果から、ジュンがティルタニアンの血を引く存在であると確信した。ただ…あまりにもその血が薄まっている点を踏まえると、相当古い時代において、何らかの事情でマム・アースに迷い込み、そのままアーシアンとの間で血脈を継いできたと考えると、ジュンに至るまでに、相当な世代を経てることになる。

「もし、それが事実なら、渉や俺と同じ存在が、しかも誰にもバレずに連綿と、アーシアンに混じっていたってことになる。だったら、もうジュンに対して、俺達自身が“正体”を隠す必要は…」

「いや…今は未だ、その時じゃない。ジュンが本気で、自分自身の血脈を知りたいと言い出すまでは、僕らの素性を明かさない方がいいと思うな。」

「ビスタ…」

「今のティルタニアは、ジュンには酷過ぎる…たとえ、何らかのカタチでティルタニアンとしての能力が使えたとしても、ナージュ、キミよりも弱いと思うよ。それだけ、血が薄まって、使いモノにならない。」

「…何気に俺を、ディスってないか?」

「あ、そういう意味じゃなくて…キミの場合、それを補う以上に、“ホーリー”が使えるじゃないか。あれだけでも、充分な脅威だよ…けど、ジュンにはそれすらない。」

「え…それって、俺の方が特殊だってことか?」

「正直なトコを言えば、ね…けど、それならそれで、通常は相当な兵力として、軍部からの直で、監視対象となる。だが、既に僕の部隊にいる事自体、その件に関しては帳消しになる。しかし…」

「ジュンは別…か。でもまた、何で狙われたんだ?」

「それが解れば、僕も苦労しないよ…どうも、敵の動きが読めない。今は、敵も業を潜め、こっちの出を伺ってる様だし、かといって、迂闊にこっちから牽制する動きを見せるのも、厄介だからなぁ…」

そう答えるとビスタは、腕を組みながら深い溜息をついた。

「ビスタでも解らないってことは、俺達、相当ヤバい案件に足を突っ込んじまったって事になるなぁ。」

「ともかく、ナージュ、これは僕とキミとの間での秘密にしておこう…みんなでデータの共有が原則とは言え、誤解や偏見が生じかねない事案だ。必要に応じて開示することはあっても、現段階では…」

「喋るなよ、だろ?」

「長年の付き合いで、察してくれるから助かるよ。」

「はいはい…何年、お前の“女房役”やってると思ってんだ?」

ナージュはそう答えながら、ビスタに塩対応な笑みを見せた。そこへ、部屋のドアを叩く音が聞こえた。ナージュが返答する間も無く、勝手にドアが開いた。

 「無礼失礼…あのバカが、余計な混乱招く情報を持って行ってたぽいんで、修正に来た。」

そこには、マーグと同じ、夜明け前の星空を思わせる様な青い髪をした、中肉中背な男が立っていた。

「蘇芳さん…いや、賢皇プレネクス様!!」

「賢皇様が直々に、こちらにお越しになられるとは…連絡してくれれば、それ相応の…」

「俺、そういうのは嫌いなんだよな…お前さん達と一緒でさ、もっとスラングな付き合い方、できないもんかなぁ。」

 二人が慌てる様を見て、賢皇プレネクス…こと、蘇芳努はそう答えた。努は普段、医療分野で財を成した蘇芳財閥の当主として、また、財閥が運営する医療法人“健凰会”の総院長として、日夜医療現場を駆けずり回っている。だが、その正体は、不老不死にして、世界を統べる“知の星神(ステラ)”と称す、二つの“皇神(おさがみ)”のうちの一柱である。そして、マーグが言う“親父”とは、彼自身を指している。

「まあいい…とにかく、療養記録から導かれたデータのうち、療養羊水カプセル内での反応なんだが、あれは毒素というより、長い間、風呂に入ってないヤツが水に浸かった時と同じだ。おそらくだが、最低でも3ヶ月、清拭すら行なっていない状態だったと推測できる…なんせ、サンプルの羊水から検出されたのが、殆どが皮膚表面の老廃物だったからな。」

 努がそう言うと、ビスタはデータの一部を見直した…確かに、汚物成分の解析データには、皮膚の老廃成分が顕著なまでに見て取れた。

「つまり、全裸の状態で、あまりにも不衛生な場所に監禁されていたって事でしょうか?」

「まぁ、そうなるな。で、その老廃物から検出されたのが、向精神薬の類…しかも、オーバードースが疑われるほどの量が検出されている。」

「え…それって、ジュンは薬物中毒になっていると?」

「初期のデータだけで判断したら、そういう事として俺も接したと思う…が、髪の毛に残存する成分以外、カプセル治療後は殆ど検出されていない。もちろん、カプセル内での治療で、大方の薬物成分が解毒された事もあるが、あまりにも急速過ぎる…で、気になったから生体検査のサンプルを寄越せって言ったんだ。」

「それで、血液と粘膜のサンプルを提出してほしいと…」

「そうだ…比較のために、シーマとディオンにもインフルエンザ検診だと言ってサンプルを出してもらったんだが…ディオンはともかく、シーマがなぁ…」

「蘇芳さん…余計な検査してません?」

「ケミのデータサンプルだと思って取り扱おうとしたら、予想外のデータが出てきたんだよ…」

「シーマが、アグリ…本当だったのか。しかし…彼には、プラントポッドや対光緑化現象などの、アグリ特有のモノは…」

「恐らく、ビスタも気付いてるかと思うが、、ケミとしての能力の方がアグリの能力を上回ってるから制限がかかってるのだと思うな。当然だが、ジュンの生検データも、アーシアンとの交雑でかなり薄まってると言えど、アグリのモノなんだ。だから、薬物による影響で、本来なら目覚める事のない能力の一部が、強制的に涌現した状態になっている…奴さんの狙いは、その能力を完全なモノにさせた上で、捨て駒の兵士にするつもりだったのだろう。」

努から意外な分析結果を聞いて、二人は身の毛も弥立つ様な思いになった。そして、

「記憶障害は薬物と暴行によって脳がイカれたせいだが、嗅覚過敏や摂食障害の原因も、アグリとしての能力が、薬物…しかも特殊な向神経薬の影響で覚醒したモノと考えていい。こればっかりは、治療とかでどうすることもできない…」

と、努が告げると、

「…行き場がないのか、ジュンは、どこにも、この先にも。」

と、ナージュが呟いた。

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第12話。

ジュンは突然、部屋を飛び出した…その目には、涙が浮かんでいた。

「おい、ジュン…悪かったって。本当に、俺が見せたかったのは、“けもナー娘。”の新作なんだってば…」

慌てふためきながら、ヴェルファイアは追いかけたが、そこには、ジュンの姿はなかった。

 

話を少し戻そう…きっかけは、ジュンがビスタ達がいる部屋に、紅茶スコーンを持って来た時である。ちょうどその時、ヴェルファイアがマーグと入れ替わりで部屋に来たタイミングであった。

「お、今日は珍しく、ジュンがお茶請けを持って来たのか。」

ナージュが出迎えると、ジュンは手にした籠を渡そうとした。すると、奥からヴェルファイアが声をかけた。

「なあ、ジュン…お前、アニメ好きか?」

「アニメ…なにそれ?」

「あ、いや…お前ぐらいの年頃だと、こういうのが好きじゃねぇかなぁ…って思ってだな、ちょっといくつか用意したんだよ。ま、俺も昔からアニメが好きでさ、これだったら、お前でも楽しめるんじゃねぇかなってね。」

ジュンは、ヴェルファイアの見た目と裏腹な、意外な趣味にきょとんとするが、

「星野先輩、国神所長、ちょっとコイツ、俺の部屋に連れてっていいっすか?」

「構わないが、部屋、片付けたか?」

「わかってますって…ジュンの嗅覚が過敏だから、常に異臭を放つようなモノは、処分してありますって。」

とビスタに報告するやいなや、ジュンを連れて部屋を後にした。

 

あっけにとられながら、ジュンがヴェルファイアの部屋に入ると、アニメヲタクを自称するだけあって、様々なアニメグッズと映像ディスクが、所狭しと並んでいた。特に目を引くのは、“かうべうしベルルン”と描かれた、マスコットキャラの特大ポスターである。

「これ…堀川さんの、趣味?」

「おう、そうさ…俺、こういうのが好きなんだよ。いわゆる、獣人化キャラってのがさ。ベルルンは本当に、カワイイんだから。」

少し照れ臭そうにヴェルファイアが答えると、ジュンはどういう表情をしたらいいのかわからなくなった。

 「とあるロボットアニメの主人公曰く…笑えばいいよ。俺自身がバカにされるのは平気だが、それは、こっちの事情を知らないことが前提だ。知ってて笑われるのと、知らないから笑われるのじゃ、意味も訳も違う…知ってて笑うのは呆れてるからこそ、知らずに笑うのは、素直な気持ちだからこその笑いだ。ずっとお前、笑った顔、してないだろ?だったら、笑え…笑ってくれるなら、俺はどんなに傷付いたって、構わないって思ってる。」

ヴェルファイアがそう答える傍で、ジュンはきょとんとするしかなかった…笑い方すら忘れた少年には、笑顔で応える術を使える訳もなかったが、それでも、“笑って欲しい”というヴェルファイアの気持ちだけは、なんとなく理解できた。だからこそ、笑顔を作れない代わりに、真っ直ぐにヴェルファイアの横顔を見ていた。

「そんなマジマジと見るなよ、頭から変な汁が出るだろ。おい…」

ジュンの行動に対し、事情を知っているとは言え、流石に戸惑うしかなかった…まるで茹蛸のように赤面しながら、ヴェルファイアはマルチディスクデッキに、今手にしているディスクを入れた…まさかそれが、問題の映像が入ったモノだとは気付かずに。そして、再生ボタンを押して映像が出た途端、ヴェルファイアは一気に青褪めた。

「あ、いや…これはその…ち、違うんだ、そういう趣味は俺は…」

直感的に、ジュンは身の危険を察した。いや、消えていた記憶の一部…しかも、監禁された挙句、酷い仕打ちを受けてたであろう感覚が、フラッシュバックしたのである。明らかに、自分の声だと認識したジュンは、その、あまりにも残酷過ぎる映像を直視できなかった…そして、ヴェルファイアの部屋を飛び出したのである。だがその瞬間、ジュン自身も訳が解らない感覚に堕ちたのである…目を伏せ、部屋の扉を開けて走り出そうとした時、肌に感じる空気が変化したのに気付いた。そして、視線を戻すと、本陣寮の廊下に出てた筈なのに、なぜか見知らぬ森の小道に立っていた…ジュンはディオン達に保護されて以来、生活の場である本陣寮と、隣接する製菓工房以外の場所に出る事はなかったから、そこがどこなのかを知らなかった。そして、夕闇迫る森の中で、途方に暮れるしかなかった。

 

「どういうことだ?ヴェル…」

「こっちだって聞きたいぐらいだよ…ジュンが急に姿消すなんて、何が起きたのか、俺にも理解できない…」

大声に気付いて駆けつけたエスクードが、ヴェルファイアに事情を聞き出そうとしたが、当人ですら何が起きたのか、状況が把握しきれていない。が、シーマがヴェルファイアの部屋に流れてる映像を見て、何かを察した…そして、

「これ…まさか、ジュン君が受けた虐待の映像では?」

と問い質すと、

「まさか、“けもナー娘。”だと思ってたのが、これだったんだよ…俺のミスだ。頼む、助けてくれ…このままじゃ、俺…余計にアイツ…」

と、悲壮感から泣き出しそうな顔で答えた。

「ワグナー隊長、僕、探してきます。多分、遠くには行ってないと思うんで、付近を探せば大丈夫かと…」

「よし、わかった。俺の方から報告を入れる、シーマは探索、頼むよ。」

「了解しました…ヴェル先輩、大丈夫っす。ジュンは遠くに行ったりは…」

「だが…どう言えばいいんだ?テレポートしたとなれば、アイツも異界の民だったのか?だったら…」

「それは後だ…ヴェル、とりあえずクロノス様に事情説明と、現状の報告をするぞ。」

動揺を隠せないヴェルファイアに、エスクードは頬を叩いて促した。シーマはヴェルファイアの部屋に、不可解な時空の歪みがないか、痕跡を探り始めた。そして次の瞬間、

「…そういうことか。だとすれば、あそこに飛ばされたのかも。」

と呟くと、先輩二人に対してこう言い放った。

「先輩…移動をラクしようとして、空間連結の結界術、そのままにしてません?」

「え…どういうことだ?」

「もしジュン君が、うっかり結界を踏んだのであれば、たとえアーシアンであっても、この建物自体がティルタニアの領内と同じなら、勝手に結界外に飛ばされますって。」

と推察を述べると、そのままシーマは廊下を駆けて行った。

 

一方、ジュンは暗がりの中でトボトボと、行くあてもなく小道を歩いていた。体力のないジュンにとって、彷徨い続けるのは危険である…しかし、ここがどこなのか解らない不安と、とにかく本陣寮に戻りたい一心で、立ち止まることよりも前へ進むことを選んだのである。目印も何もない、ただ、歩き易い様に整備された道を、ゆっくりと歩くことしかできなかった…そして真っ暗な森の中で、何か光るモノが見えた。恐る恐る近づいて見ると、そこには石板があった。石板には、何やら文字が彫られている様だったが、それを読解することはできなかった。だが、ここにいれば、なんとなく助かる様な気がして、石板の前にある段差に腰をかけ、膝に顔を伏せた…映像に映された、おそらく自分自身だと思う少年の姿が、時折、頭の中をよぎる度に、首を横に振り続けた。

“あれは…僕…じゃない…僕は…僕は………”

「僕は、雌鶏…なんかじゃない…」

そう呟くと、急に遠くから、

「ジュン君、どこだい…返事して!!」

と、シーマの叫ぶ声が聞こえた。そして程なくして、シーマが手にしてるLEDカンテラの光が見えた。そして、その光がジュンの影を捉えると、すぐさまシーマは駆け寄った。

「よかった…ここに飛ばされたんだね。大丈夫かい?」

「隼、ここ、どこ…僕、僕は…」

泣きじゃくるジュンを見て、シーマは安堵の顔を浮かべた。そして、

「ここは…本田先輩のお墓なんだ。僕自身はお会いしたことないんだけど、この農園で、里山の整備を担当してたらしいんだ。それで…」

「お墓?ここが…でも、なんで?」

「僕もよくわからない…けど、この場所が、先輩のお気に入りだったってのは聞いてるよ。古い欅の木だけど、ここだけは伐採せずに、農園の整備を行ったんだって、国神さんもおっしゃってた…きっと先輩、僕らのことを今も気に掛けてるんだと思うよ…だって、ジュン君がここにいたってことは、守ってくれたんだと…僕はそう思うよ。」

と、ジュンに声を掛けながら、

“グランツ曹長、ご迷惑をかけて、すいません…そして、ありがとうございます…”

ジュンを無事に保護できたことに対し、シーマはジェミニの墓標の前で、ジュンに聞こえない声で感謝を述べた。そして、自力で歩けないジュンを背負って、本陣寮へと戻った。

 

シーマが本陣寮に辿り着く頃、ジュンはその背中で眠っていた。心身共に疲労困憊なジュンにとって、シーマの背中は小さいけど、暖かく感じた。そして何かを感じ取っていた…彼らが何者であったとしても、一人の人間として、そして“戦士”としての力強さが、とても心地よかった。ジュンの体重が軽いと言っても、シーマにとってはかなりの重量であった。でも、安心して寝息を立ててるのを感じ取ると、足元がフラフラになってても、倒れる訳にはいかないと踏ん張り続けた。だから、玄関先でナージュとカルタスが待ってるのが見えると、力を振り絞って駆け寄り、段差で躓いて前のめりで転けたのである。すかさずナージュがシーマの下敷きになることで、二人に怪我はなかった…ナージュ自身は軽い打撲を負う結果になったが。

「なんにせよ、無事で何よりだ。」

「星野先輩、大丈夫っすか?」

「吉野、先にジュンを部屋に連れて行ってやれ…俺の方は心配いらん。」

「あ、星野先輩、すいません…」

「尾崎もお疲れ…すぐに見つかったんだな。でも、お前も大丈夫か?」

「でも…」

「俺の方は心配いらないって…大切な仲間を失う方が、精神的に辛いからな。それに比べたら…この痛みぐらい、どうってことはないさ。」

笑みを湛えながら、シーマに声を掛けると、ナージュはそのまま身を起こした。ナージュにとって、モーザ隊時代からの同僚だったジェミニの墓前にいたことに驚きを隠せなかったが、むしろ、そのジェミニが、今でもそこにいてくれたのかと思った時、その件で報いてやらねばという感情が咄嗟の行動に出た…それで負った怪我なら、痛みも何も平気だと、ナージュは自分に言い聞かてせた。カルタスも、その気持ちは同じだった。

 

 

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第11話。

ある日、ヴェルファイアが私用で国神農園の近隣…といっても、車で2時間以上かかるトコにある、海が見える大きな街に出かけた。幹線国道が農園の近くを通っているといっても、山間深い地域では、対面通行できるだけでも立派なモノであって、農園から最寄りの高速道との接続区間は、お世辞にも国道とは思えないほど荒れている。そんな、ある意味“酷道”マニアなら垂涎な幹線道路を、中型バイクで走り抜け、街まで出たのには理由があった…一つは、趣味のアニメグッズを予約していた専門店での受け取りと…

「よう、早かったな、ヴェル。」

「なんで、わざわざ俺指名すっかな?このオッサン…」

マーグからの呼び出しである。と、いうのも、

「いやなに、“けもナー娘。”の新作ディスクが今日、先行発売されるってのを知って、多分、アニメヲタクなヴェルだったら、こっちに来るだろうと思ったからさ。」

鋭い読みが的中して、マーグはご満悦な様子である。しかし、呼び出された方は、堪ったモンじゃない。

「だからって、なんで俺な訳だよ?直でクロノス様やランティスの旦那に会えばいいじゃんかよ?」

ヴェルファイアの意見はごもっともである…だが、マーグにも事情があった。

「親父からの指示で、おおっぴらにビスタやナージュに連絡を入れるのは、ちょいマズい状況なんだよ…どうもこの事件、背後に厄介なモノがいるっていうんだ。しかも、ティルタニアに影響を及ぼしかねない…」

「隊長を、あんな目に遭わせた連中が、まだ蠢いてるのか?」

「まだ断定はできないが…っと、ここで話してるのもなんだ、そこのネットカフェに入ろう。」

「ちょ…オッサン…あ、なるほど!」

マーグの唐突な行動に、ヴェルファイアは戸惑ったが、マーグの仕草で、何かを察した…件の敵と思しき者が、ヴェルファイアの行動を監視してるのに気付き、近くのネットカフェに籠る事を提案したのである。

 

「駅前に停めたバイク、アレはオレが引き取ろう…代わりにオレのを使え。」

シアタールームを借りて、二人きりになったところで、マーグはヴェルファイアに告げた。

「すでにマークされてるってことか…でもよ、オッサンのを借りたとしても、帰り道が同じなら…」

「オマエ、時空術の使い方がヘタレだなぁ。本陣寮と反対方向走って、途中で方違えすればいいじゃんか。」

「余計にヤバいだろ、それは。」

「だから、オレのバイク使えって。今時、水素ガスエンジン搭載じゃない中型の骨董品に乗ってるのって、オレぐらいだろ?囮になるから、オマエはアレを使え…上手く引き付けたトコでオレが強制的に時空の扉開けるから、そこから逃げろ。」

“このオッサン、ティルタニアンじゃねぇのに、何者なんだよ…”

マーグの提案に対し、ヴェルファイアは疑念を抱いたが、状況を考えれば、飲まざる得なかった。

「それはともかく…なんで俺じゃないとダメなんだ?」

ヴェルファイアがそう問いかけた途端、マーグは普段使いのウエストポーチから、おもむろに一枚のディスクを取り出した。

「なんだ?それ…」

「ラジオ局のパソコンからアクセスして、コピーした動画だ…フェリム邸やオレのタブレットとかだと、足が付くと思ってこっそりやったんだ。ま、そのパソコン自体は、後でオレが新型に買い換えてやったけどな。」

不敵な笑みを浮かべながら、マーグはディスクの入手先をヴェルファイアに話した。そして…

「先に言っておくが、オレですら寒気を感じるほど悍ましい映像だった…この動画で、酷い目に遭っているのは、オマエ達が保護した少年だ。」

「え…ジュンが?!」

「しかもご丁寧に、年齢を偽証させた上で、そういう性癖向けのモノだ…言葉をまともに発せないよう口を塞がれたまま、虐待され続ける内容だった。」

「つまり…ジュンが記憶障害になったのも、異様なまでに嗅覚が鋭くなっちまったのも、全部その虐待の果て…ってことか。」

「考えられ得る…それと、親父がビスタからの依頼で、薬物に関する痕跡を調べた結果、これまた、とんでもないことになっていた。」

「まさか…」

「ああ…少年の髪の毛を解析したら、致死量に近い興奮剤が投与されているのがわかったんだ。それ故の影響で、脳だけでなく、内臓も含めた全身に深刻なダメージを負った状態になってると、親父はいうんだ…摂食障害も、内臓の負荷を軽減させるためのモノだったとすれば…」

「そんな…アイツ、もう…長くは生きられないのか?」

「あのままだったら…の話だ。今は、ちょっとは改善してるだろ?発見が早く、措置を間違えなかったから助かったんだ。薬物中毒の件も、脳に影響が残るものの、オマエ達が守ってやってる限りは大丈夫だ。それに、まだ若い…限度はあれども、まだリカバリーできる範囲さ。」

一連の話を聞いて、ヴェルファイアは行き場のない憤りで言葉を失った。まだ、成長期にある少年の心身を、いとも容易くズタボロに、廃人同然まで追い詰めた相手が許せなく、自分達が保護してると言えど、帰る場所も先の未来をも奪われたジュンが、どう転んでも、自立は不可能だと知って、悔しさをにじませ、唇を噛んでいた。

「ヴェル、オマエが希望を捨ててどうすんだ?限りがあるからこそ、できること、やりたい事を精一杯できるよう、守ってやりゃ…」

「無理だ…普通のアーシアンの子供が、余命がない状態で、俺達と一緒に生活するなんて、さらなる地獄しか…」

「落ち着け…その“希望”は、オマエ達がジュンと呼んでる少年自身が持ってるモノで、オマエが勝手なことしない限り、潰えることなんてねえよ。むしろ、奴さんがムキになって少年やオマエ達の命を狙う真の理由は…」

「…向こうにしたら、俺達のトコにジュンがいること自体、非常にマズいってことか。」

「ぶっちゃけ、そうなるな…特に少年は、なんらかの実験に使う目的で、拉致監禁した可能性が高い。それを外部に知られたくないからこそ…んで、マム・アースでの資金調達のために、特殊な性癖向けの動画を作った…とすれば、わかるよな?」

「それで、警察の麻薬取締班が一枚噛んでたことにした訳か…」

「情報操作だって、時空術に長けたオマエらだったら、容易いことだろ?そこんトコは、恐らくビスタも感付いてるし、どうも厄介な輩がいるのはわかる。だからこそ、ここは敢えて、奴さんの“次の一手”を見るしかない…」

「どっちにしろ、ここでの武力衝突は避けるべきだってことか。」

「当然だろ?派手に暴れりゃ、素性も居場所もバレちまう…奴さんもその条件は同じだ。だから、用もなく街中を不自然に出歩くビスタよりも、ヲタ活動してるオマエの方が、伝令役として適任って訳さ。」

状況をやっと飲み込めたヴェルファイアは、マーグが持ってきたディスクと、いくつかの資料と思しきメモを受け取った。

 

「ーつまり、マーグの指示で遠回りしてるってことだな?」

『はい、かなり前から俺、追跡されてたっぽくて、振り切るために囮になると、オッサン、言ってきたんすよ。』

ヴェルファイアは、マーグの愛車に乗って、街を南へ向かって走る途中、時計型スマホでナージュに報告を入れいた。

「だったら、そのままそっち方向に走れ。適当な時間にバイクの発信ビーコンを作動させな…アイツのバイクなら、緊急用のビーコンを搭載してあるから、そこにターゲットを絞れば、こっち側から扉を開けて繋ぐことができる。なに…アイツのことだから、敵を適当にバラしてから、こっちに合図を出してくるさ。」

“なるほど…そういうことか。”

ナージュの話を聞いて、マーグが言ってたことに関して、ようやく合点した。

『了解っす、とりあえずこのまま、海岸線へ出ます…ビーコン、今から出しときますんで、はい…』

細かい指示を受けながら、ヴェルファイアはバイクを走らせた。

「とりあえず…ヴェルを遠ざけた事で、敵がそっちに向かった時点で助けるか…」

「悪いな、ナージュ…こうでもしないと、サシで話できねぇからなぁ。それに、ヴェルに渡した一連の資料、アレは偽物だ…」

「よくデタラメなことするな、お前。帰って来たらヴェルのヤツ、相当恨むぞ。」

一連のやりとりを、すでに本陣寮に到着していたマーグは、息を潜めて見ていた。そして、改めてビスタとナージュの前で、事の次第を伝えた。

「要するに、ヴェルに話したことは事実でも、資料自体は相手に渡ったとしても、フェイクってことか。」

「ああ…だが、この事実をジュンが知ったら、多分…余計な記憶障害になる可能性がある。だから、映像の入ったディスクはヴェルに渡している。それ以外のデータは、そのメモリに入っている。今時、紙媒体で資料をやりとりするのは、証拠隠滅を図るにしても、リスクがデカいだろ?」

「ボクのPCで今見てるけど、これ…本当なら、ジュンはボクらと同じティルタニアンだってことになるんじゃないか。」

「ビスタでも、そう感じたか。」

PC上に映し出された、ジュンの生体データ解析を見て、ビスタは驚きを隠せなかった。ナージュもまた、解析結果を見て、険しい表情になっていた。

「薬物耐性が驚異的なのはともかく、地中に埋められて半日近く生存できたのは、アグリブロスの特性と同じだ…だけど、彼にはプラントポッドの痕跡がない。」

「そういえば…シーマに似てるな、この特徴は。」

「ビスタ、シーマもアグリなのか?」

「当人は気付いてないだろうし、今更話す必要もないと思ってたんだが…アグリとケミのミックスの場合、遺伝子的なモノの都合で、アグリの能力を有していながら、プラントポッドを有しない個体も稀に存在するんだ。」

アーシアンとのミックスな俺と、一緒ってことか?」

「そう自分を卑下にすんなよ、ナージュ。ボクは最初から、キミを補佐官にしてるほど信頼してるし、高く評価してるんだよ。」

曇りがちなナージュを、ビスタは笑みを浮かべながら窘めた。古い付き合いだからこそ、劣等感で不機嫌になる相棒に対し、笑顔で声を掛けたのであった。そんなビスタの態度を見て、ナージュは少し苦笑いして応えた。

「…まったく、ビスタには敵わないぜ。」

そうこうしてるうちに、マーグのバイクに乗っているヴェルファイアから、救難ビーコンが発信されていた。

 

 

 

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第10話。

国神農園から警察が引き上げた頃、ダイナは、事の次第を報告するため、本陣寮のビスタの部屋に訪れた。

「…なるほど。だとすると、背後にいるのは、あの事件以降姿を晦ませた、フォルクス中将…否、その“偽物”がいる可能性があるな。」

「クロノス様を襲った、件のクーデター集団の中心人物…しかし、当のフォルクス中将自身は、先のヴェネゼブ暗殺事件の際に、モーザ隊に嫌疑をかけられた末、自ら命を絶った…仮にその情報が嘘であるなら、今も存命で…」

「いや…中将は俺達の眼の前で、自分の首を刎ねた…いくら練成術で肉体を瞬時に修復できるといっても、その場に医療班がいて蘇生が間に合えば別だが、あの場には医療用生態練成ができる、アグリブロスは一人もいない状況だ。まして、即死状態の被疑者を回収して、人為的に操作して生きてる様に見せかけるには、死体に定期的な防腐処理と、遠隔での操作を可能にするデバイスが必要になる。逆を言えば、なりすましで中将の名を騙り、一個小隊を動かしているのであれば…」

「“トライグラン”だな…」

「ビスタ…やはり、あの一派がこっちでも蠢いているってことか。」

「あり得るな…そして、この手口…時空操作をやってる加減でアーシアンにはバレにくい半面、マム・アースで行動する我々には、むしろ厄介だな。」

ダイナの報告内容から、明らかに警察組織内に、かつてティルタニアを乗っ取ろうとした、敵組織の内通者がいることに、ビスタ達は勘付いた。と、同時に、その内通者が誰なのか、慎重を期さなければならないことも意味していた。

「つまり、余計なことをしないで、しばらくは農作業に没頭した方が無難…ってことだな、ビスタ。」

「ジュンくんの件も…とりあえずはディオンとシーマに任せ、他のみんなは通常業務をやってくれ。それとナージュ…」

「マーグに連絡入れろ…だろ?」

「悪いな…こういう時だけ、彼の力を借りないと動けないのが歯痒いが、表立って動けば、確実にここを特定されてしまうからな。」

ビスタは、ナージュに指示を与えると、深いため息をついた。

「もしも、ジュンくん自身がこの事件の鍵を握っているのなら、記憶喪失である理由、かなり厄介な事情が孕んでるな…」

そう呟くと、何かを察したのか、ナージュは無言で部屋を後にした。

 

一方、 ジュンはリハビリの一環として、セルボの指示でスコーン生地を切っていた。国神農園ブランド“天地の恵み”で作る焼菓子の中でも、一番シンプルながらも評判がいい商品で、特に自家製和紅茶を練りこんだスコーンは、通販でも出荷に2週間待ちが出るほどの人気商品だ。製菓工房内ではオーブンが開く度に、品のいい紅茶と甘い香りが漂っていた。

「この匂い…好き。」

ジュンにとって、紅茶のスコーンが焼ける匂いは、数少ない体が受け付けることができる、気持ちが安らぐ匂いだった。保護されてから初めてここに入った時、他の場所と違い吐き気を催すことがなかった…加工食品を製造する区域内で、激しい吐き気を伴うのは、致命的なことである。しかし、国神農園に定住するには、重労働の農作業はともかく、食品加工の現場での作業は、最低限度のスキルとして必要なことだった。だが、極度に嗅覚が鋭敏になっているジュンにとって、どうってことのない食材の匂いでも、汚物のように感じてしまうことがあった…その感覚が唯一抑えられるのが、和紅茶を使ったスイーツだった。そこでセルボは折を見て、紅茶のスコーン作りを手伝わせたのである。その嗅覚を利用して、異物混入の有無や生地の配合の誤差を見極め、製品の品質向上に成功したために、今ではスコーン作りに欠かせない助手として認めているのであった。

「よし、今回はここまで…もういいよ、いつもありがとう。」

セルボが声をかけると、ジュンは深いため息をついた。自分にもできる仕事を、きちんとやり遂げた、安堵の表情がそこにはあった。

「明日も、たくさん…作る?」

「いや…明日は休業。だって、このオーブンの定期メンテが入るからね…他のお菓子を作るにしても、ジュンには匂い的に無理だろ?」

「紅茶使うお菓子、他にあるの?」

「おいおい…小麦粉と油脂を使わないお菓子は、製造過程を見て気持ち悪いっていったの、お前だろ?」

「でも…この匂い…好き…」

…参ったなぁ、興味持つことは良い事なんだけど…とセルボはジュンの純粋さに戸惑いながらも、最後のスコーン生地をオーブンに入れた。焼けるまでの間に、製品規格としては適さなかったスコーンを集めてカゴに入れると、ジュンにビスタの下へ持って行くように指示を出した。

 

 

小説のようなモノ…ティルタニア騎士団物語 第9話。

ーとある地下組織…

「つまり、ヤツはまだ生きているということか…」

「は…あのガキを完全に始末したハズなのですが、どういう訳か、我等と同じティルタニアンの者に保護されているという情報があり、そこで、密偵に対して件の輩が潜伏してる場所の特定と、この世界上にある公安機関に対して輩の排除を促すよう命じておきました。」

「しかし…何故に我等以外のティルタニアの民が、この世界にいるというのだ?」

「まさかと思われますが、柱神直々に小隊を率いて出入りしてるのであれば、我々の行動を牽制してるのでは…」

「それはありえぬ…柱神の近衛部隊が、我等の企みを察して動くなら、人の姿を成してこの世界に現れる訳がなかろう。この技術は、我等以外使える代物ではない。」

「ですが…それを手助ける者が、この世界にいたとすれば…」

「それを見つけ、抹殺するために我等は動いてるのだ!! 我等こそが、ティルタニアを制し、あわよくば、このアーシアン…否、ステラが支配する全てを奪い取るために、我等は秘密裏に行動を起こしてるのだ…しかし、まさかここでしくじるとは。」

「閣下、始末を行ったバカを連れてきました。」

「…あの状況で助かるなんて、まして、誰も近づけない人里離れた山奥に生き埋めしたのに…」

「きちんとトドメを刺したと言ったな?だったら、なぜ完全に始末しなかった?少しでも証拠が残れば…」

「閣下、あの状況で普通のアーシアンが生きられると…」

「問答無用!! 貴様は我等を裏切った…よって、この場で処刑する。」

「お…お待ちください、閣下…閣下直々に手を下さずとも、我々で…」

「…庇うなら、お主らも同罪だぞ。それでも良いのか?」

「いいえ、閣下が手を汚さずとも、我々で処分します。」

「それをしくじって、こういう事態になっているのだ…わからぬか?」

「…」

閣下と呼ばれる事の“黒幕”は、どうやら部下の失態によって、壮大なる計画が失敗することを恐れているようである…ま、こういう上役は、どの物語でも最後は惨めな結果しか待ってないのだが…

「吾輩の手で屠られる事、譽れと思え…」

そう一言発するとともに、さっと右手を横に振り払う仕草をすると、眼前の兵士は鮮血を挙げてその場に倒れた…現場にいた士官は、その惨状を目の当たりにして、立ち尽くすしかなかった。

 

その頃、国神農園に麻薬捜査のガサ入れが訪れた…が、その捜索途中で、捜査班が慌ただしく帰り支度をし始めた。

「どうかされたんですか?まさか、捜査令状なしでの不法捜査だったとか…」

「あ、いや…その…我々も何が何だかなんですよ…いや、ともかく、どうやら何かの手違いだったようで…」

捜査課の若い刑事がそう答えると、対応に当たってたダイナが首を傾げた。すると、

「羽倉崎くん、すまないね…今さっき、上から連絡が入って、なぜか捜査令状そのものが無効になったらしいんだ。」

と、麻薬捜査班の動向を警戒していた押熊警部が、事情を簡単に説明した。

「押熊さん、捜査に関しての情報は…」

「誤認捜査をやってるにも関わらず、それは失礼ではないのか?それに、令状が無効になった以上、ここから先は私の担当だ。」

そう言い切られると、麻薬捜査官たちは、すごすごとその場を立ち去った。

「しかし…なんでだろうな?急に捜査令状が無効になるなんて、私も長年刑事をやってるが、聞いた事がないよ。」

その話を聞いて、ダイナは異変の原因に気付いたが、自分達が“異界の民”である事を勘付かれたくないため、言葉を殺した。